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第19 移り香に揺れて 6 ※

「えっ、ギガイ様?」 そのまま身体を返されて、ギガイの膝の上に降ろされる。 「悪かったと思うなら、仕置きを受けろ」 「やっ、やだ!! ギガイ様ごめんなさい! ヤダッ!仕置きはイヤです!!」 途端に暴れ出そうとした身体を、ギガイの掌に軽く抑えられただけでもうレフラにはどうしようもなかった。 「私はさんざん言っただろう。離れるマネと損なうマネだけは許さない、と。それにお前のこういった誤魔化しは私を謀っているのと同じだぞ」 「ご、ごめんなさい……」 カタカタと身体が震えてしまう。冷たいギガイに、いつ終わるのかも分からないまま嬲られ続けた記憶が甦る。 でもあの時と違ってギガイの声音は呆れながらも柔らかい響きを持っていた。 「っふ、こわ、い…ギガイさま、やだ、こわい……」 その優しさに縋るように、潤んだ目を向ける。そんなレフラの必死の訴えに、一瞬息を詰めたギガイがまた大きく息を吐き出した。 「…分かった、じゃあ3回だけにしてやる」 「…さん、かい……?」 「あぁ。心配を掛けた分、謀った分、そして損なうマネをした分だ」 ギガイの膝の上に伏せたレフラの臀部をギガイの掌がサワリと撫でる。子どもが罰を受ける時のような体勢と大きく温かい掌の感触だった。 ギガイが何を言っているのかようやく分かったレフラが、また身体を震わせる。わずかな安堵と言いようのない不安と羞恥で、心が大きく揺れていた。 今までにも交わる時に戯れのように叩かれたことは何度もあった。でも、こうやって仕置きだと言われるぐらいなのだ。今までとはきっと比べものにもならないのだろう。 「頑張れるな?」 確認するギガイの言葉に、ますます心が追い詰められる。 「……はい…」 イヤだ、とは言えない状態なのに、最後はそうやって自分の言葉で受け入れさせられるのだ。ギュッと目を瞑ったレフラの身体は固く強張っていた。そんなレフラの臀部を優しく撫でていたギガイの掌が持ち上がる。 「たった3回だ。しっかり数えてろ」 「…は、い……」 震えてしまう声を情けなく感じる余裕も、もうレフラの中には残っていなかった。 ヒュッ、と風を切る音がわずかに聞こえたと思った瞬間、痛みがお尻の方から伝わってくる。 「あぅっ!! いたっ! やだっ…いた、い、ふぅぅ…い…やだぁ……」 だいぶ手加減をしてもらえていることは分かっている。それでももともと力の強い黒族の族長だ。それに加えて、戦いの中での身体の使い方にも長けている主なのだ。 そんなギガイから振り下ろされた掌は、鞭のような鋭さで、たった1回叩かれただけとは思えない痛みを残していく。 「レフラ、ちゃんと数えなければやり直すぞ」 「やぁっ! イヤですッ!ヤダッ!」 「じゃあ、ちゃんと数えろ」 「…っ…いち……」 言葉と同時にギガイの手が頭をクシャリと撫でてくる。その優しい感触にレフラがギガイの手に縋り付いた。 ギュッと握ったまま頬を寄せれば、もう抑えつける必要を感じなかったのだろう。手を好きにさせてくれたまま、またヒュッ、と風を切る音が聞こえてきた。

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