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第28 移り香を咎めて 7

涙が溜まった双眼がギガイの方を見上げてくる。傷付いた色を浮かべた目に、ツキッと胸に痛みが走った。 「だから、お前に触れる前に、マナ茶を飲ませたい……伝わっているか?」 レフラの不安を取り除けるように、できるだけ言葉にして状況やギガイの思いを教えていく。誰かのために自分を伝える言葉を紡ぐことは、だいぶギガイには難しかった。 「隣に運ばせた茶を取りに行くが、お前もこのまま一緒に行くか? それとも寝台で待っているか?」 それでもレフラの目の中にあった傷付いた色が少しずつ薄れてくる様子に、ギガイがホッと息を吐いた。 「…いっしょに…いきます……」 もう一度、レフラが力の入らない腕でギガイへしがみ付く。その身体を抱えたまま、ギガイは寝室の扉を開けた。 そのまま隣の部屋に準備されていた茶をトレーごと持ったギガイが寝室へ戻る。寝台の上に置かれたトレーの上で器用にポットからカップへ茶を注いだギガイがレフラの身体を抱え直した。 気持ちが落ち着いてきた身体は、疼きを同時に思い出してしまったのかもしれない。身体が上気してくるのにあわせて、レフラの身体から甘く濃厚な花の香が漂っていた。 魅了を力とする魔種を日頃から相手にすることも多いせいか、ギガイやリュクトワスには白族の魅毒は効くことはない。だけど唯一無二であるレフラから感じるこの花の香は別だった。 酩酊しそうな甘い香りは白族の魅毒の何倍も、ギガイの欲を煽ってくる。その香りに煽られて何度抱きつぶしてしまっただろう。レフラへ申し訳ないと思いながらも、もう分からないぐらいなのだ。 「……お前の花の香にあてられるな…」 苦笑を浮かべながら立てた片膝にレフラの背をもたれさせる。顎先を掴んで上向かせて唇を重ね合わせれば、素直にレフラの唇が開かれた。その隙間から含んでいた茶を注ぎ込み、レフラに嚥下させていく。 「ギガイ…さま、さわって…ほしい……です…」 キスとキスの合間に疼く身体に触れて欲しいと、レフラが身体を擦り寄せてくる。だけどレフラの両手をギガイが片手で纏めて握り込みながら首を振った。 「いま下手に触れば、ますますつらくなるぞ。あと少しで茶が効くはずだ。それまで待っていろ」 「や、やだっ、もう触りたい」 ギガイの制止に信じられない、と目を見開いたレフラが身体を大きく身じろいだ。 「やだっ、触らせて…自分で、する……もう、やだ……」 珍しくそう言ってグズるレフラはもう色々なことが限界な様子が見て取れる。ギガイの手で拘束されていなければ、間違いなく自分の茎にその手は伸びていただろう。 「お前は私の御饌だろう。勝手に触れば仕置きだぞ」 そう言いながら振りほどこうとするレフラを咎める。とたんにビクッと身体を強張らせたレフラの顔をまた上向かせて、ゆっくりとギガイが茶を与えていく。 そのまま口腔内を弄いたい衝動を堪えて、口角から垂れた飲み込み損ねた茶を舌先で拭ってやる。一通り茶を飲ませ終えれば、あとは薬効が効くまでの我慢だ。 「いや、です……やだっ、……ギガイ様、ツライん、です……お願い、お願い、です……」 触って欲しいと泣くレフラを前に、ギガイも忍耐力を試されているようなものなのだ。 「あとから、な……あとから触ってやるから、いまは堪えろ……」 ギガイの手に一纏めに捕らえられたままのレフラの指がカリカリとギガイの胸元を引っ掻いていた。 「……っふ、ふう……っ、……っう」 そのまま顔を埋めて泣くレフラの身体を抱き締める。立ち上がる香りに煽られながら、ギガイはまた途方に暮れていた。

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