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第27 移り香を咎めて 6

初めて聞くレフラの口から零れた “キライ” という言葉がギガイの胸に突き刺さる。 思いがけず決まったセーフワードのような言葉だった。いつもならどんなギガイの行為に対しても、レフラはその言葉を使いたがらなかった。 それなのに、いまは何度もその言葉を告げながら、それでも縋りついて泣いていた。決して使おうとしなかったその単語を用いてしまうほど、心が追い詰められているのだろう。 黒族の中でギガイの言葉は絶対で、あえてその意図を説明する必要もなければ、しようと思ったこともほとんどなかった。 結果が全ての世界なのだ。 意図がどれほど素晴らしくても成果がなければ全ては無意味だとされていた。逆に成果が上がった時でさえ、求められるものはその結果だけなのだ。そこに伴う考えを気に掛けられたこともない。 そんな世界が当たり前すぎて、気がつけばレフラに対してまで言葉を省いてしまうことが多かった。 (だが、まさかこんな風に泣かせてしまうとはな……) 『なんで』と繰り返されるレフラの姿は、結局はそんなギガイ自身の言葉の足りなさが原因だと教えてくる。 堪えるなと言ったギガイの言葉のままに、精一杯求めてみたのがあの腕だったのだろう。ギガイとしてはレフラの腕を拒否したつもりは少しもなかった。ただあの瞬間はレフラの為に、抱き寄せきれない理由があっただけなのだ。 だから愛しみを込めてキスをした。さっきの執務室にしても今にしても、すぐに戻ってくる予定だった上に、その後なら求められるままに応えるつもりだった。 甘えることがもともと不慣れなレフラだ。求めたその瞬間に理由も分からずやんわりと断られる状況が、ギガイの想像以上に負担になったようだった。 『…どうやって、ワガママを言えばいいの……』 さっきのレフラの声音は、力なくこぼれ落ちたような音だった。 求めさせた結果、さらに傷付けてしまったことに気が付いて、失敗したと苦々しい感情が湧き上がる。 「泣くな、悪かった。魅毒のせいで刺激がつらいと思って抱き上げなかっただけだ。不安にさせて悪かった……」 縋り付いてくる身体をさすって慰めたかった。至る所にキスをして、強張った心を癒したかった。でも媚薬の効果が消えた訳じゃない以上、いまは激高した感情で忘れられている身体の疼きは確実に煽られてしまうはずなのだ。 そのことが分かっているから、泣いているレフラをなだめるように触れることができなかった。 解毒のための茶は隣の部屋に準備させた。いつもなら、このまま無言で立ち上がって、隣の部屋に向かってしまうところだった。 (そうすれば、触れてもらえない理由をお前は悩むんだろうな) これ以上、レフラの心は追い詰めたくない。そのために何をどこから言葉にすれば良いのか、分からずにギガイは途方に暮れた。 取りあえず頭に浮かんだ言葉を1つずつ並べていく。 「…泣いているお前を慰めたい……だが、苦痛が増すはずだ…媚薬が残っているからな……だから触れきれなくて、困っている……さわりたくない訳じゃなくて、さわれないのだ……分かるか?」 明敏だと言われてきた頭も形無しで情けない。 それでもギガイ自身、呆れそうなぐらいたどたどしい言葉に、何かいつもと違うことが伝わったのだろう。ひたすらしがみ付いて泣くだけだったレフラが、腕の中でモゾッと身じろいだ。

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