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第34 移り香を咎めて 13
「も、もう黙っていて下さい、お願いします……私の心臓が、保ちません……」
顔を背けながらゴニョゴニョと言ってくるレフラの掌を、ギガイが舌でベロッと舐めた。
「ひゃぁっ!!」
慌てて掌を外したレフラがその手を自分の方へ引き寄せる。きっとこれ以上悪戯をされないようにだろう。
「ギガイ様!! 毎回、そうやって舐めるのは止めて下さい!」
もうこれ以上ないぐらい真っ赤な顔で睨み付けてくるレフラにクククッと笑いが漏れてしまえば、ますますスネてしまったようだった。
「どうしてだ? 愛おしい御饌なのだぞ。本当ならいつだって、お前の全身に触れてキスをして、指や舌さえ這わせたいと思っているのに」
ギガイのその言葉に勘を働かせたのかとっさに距離をとろうとしたレフラの身体を、それよりも素早くギガイが腕に捕らえてしまう。そのまま身体を拘束して耳殻に舌を這わせていけば、レフラの身体がビクビクッと跳ね上がった。
「それにこんなに風に素直に反応するお前が愛らしいのだから仕方がないだろう」
レフラの反応にまたクツクツとギガイが小さく笑っていた。
「も、もう!! 私で遊ばないで下さい!!」
これまでの経験でギガイを押しのけることはできないと分かっているからか、身動いで隙間を作ったレフラが自分の耳を両手でガードする。
それで精一杯抵抗しているつもりなのだろう。その様子にまた目を瞬かせたギガイが指丸ごとを銜え込み、敏感な指の股へも舌を這わせ始めた。
「だめですって、ギガイさま!」
「こんな私は “キライ” か?」
「う~~~ッ!!」
指と指の隙間から吹き込むように囁けば、レフラが真っ赤な顔で唸り声を上げた。
「もうっ!! “キライ” に成れないって知ってるくせに!!」
「アハハハハ」
恥ずかしさと悔しさが入り交じっているのだろう。今までとは違った涙目でギガイをキッと見上げながら、それでも“キライ”とは言わないのだ。さっき何度も “キライ” と告げられた痛みが消えていく。同時にこんなことの後でも全てを受け入れようとしてくれるレフラにギガイの中に温かいものが広がった。
そのまま腕の中のレフラの身体を抱き締め直したギガイが、感じた違和感に鼻を寄せる。レフラの首元でスンッと匂いを嗅いだ後、ギガイの口角がわずかに上がった。
「ちなみに今、気が付いたことだが。マテ茶はお前の香も抑えてしまうようだな」
いつもなら耳殻など、弱い場所への愛撫でフワッと立ち上がる濃厚な花の香が、今は漂ってこないのだ。その状況にギガイは自分の声がこれまでになく、楽しげに弾んでいるのを感じていた。
「……それが、何か?」
それに反して、聞き返すレフラの声が引き攣っている。レフラにしたらこのタイミングで機嫌良さそうに伝えられることに不穏なものを感じたのかもしれない。
「うん? お前の香を感じないのは残念だが、これなら休憩の間に少しぐらいお前に触れても平気そうだと思ってな」
「だっ、だめです!!」
「なぜだ?」
「だって、他の方もいらっしゃるような場所なんですよ!?」
「前にも言っただろう。なぜ私が他の者に遠慮をして、お前に触れるのを我慢しなければならない?」
力こそ全ての世界の中で、覇者と呼ばれるだけの力を自分は備えたはずだった。そしてレフラはそんな自分が唯一心を砕いて何よりも求める御饌なのだ。
レフラ自身の望みならともかく、そんな理由で触れられないのはギガイにしては納得のしようもなかった。
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