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第44 抱いた悋気 1

チリン、チリン。 澄んだ鈴の音が、腕の中のレフラから響いている。静まり返った訓練場で、小さな音がやたら大きく聞こえていた。 誰かを探しているのだろう。 遠くに並んだ近衛隊の顔を1人1人、確認している様子だった。そんな腕の中のレフラから、音は立て続けに鳴っていた。 いったい誰を探しているのか。そんなことぐらいは、前回この場にいた者なら、簡単に想像はつくことだった。 (レフラのことだ、気にするだろうとは思っていたからな) そんな自分の予想が外れなかった状況に、面白くない感情が湧き上がる。だが気持ちのままに制止することもできずに、ギガイは言葉を飲み込んだ。 (捨て置いても良い者を) 少し真面目過ぎる嫌いがあるせいだろう。ギガイにすれば負う必要がないと思う責任の一端を、どうしても感じてしまう様子がある。 (お前の実直さからだと思えば、好ましくもあるが……) だけど、レフラはギガイだけの御饌なのだ。 そもそも自分以外へ心を砕くこと自体が気に入らない。 本来なら、御饌は黒族長のための存在で、あの隠された宮の中でひっそりと愛され護られる存在なのだ。 色々とイレギュラーが重なったせいだが、レフラの日々は、歴代の御饌と比べれば有り得ないような過ごし方だった。 護衛に付けた3人や、日々そばに置く2人の臣下ならば譲歩もする。 (アイツらをレフラのそばに置くと、私自身が決めたからな) 選び抜いて。そして許した。だから多少の不満も堪えはする。 だが、他の者は違うのだ。そもそもレフラに関わることさえ許可を出した訳でもない。 それなのに。自分のためだけの存在が、そんな男へ意識を向けているのだから。ギガイにとっては、不快以外にない状況だった。 本当なら、自分だけを見ていろと、腕の中の身体を揺すりたい。だが動きを制止すれば、きっとレフラは落ち込むだろう。 (こちらから不快な話題をわざわざ振ることもないからな) チリンと鳴る不愉快な音から意識を背けて、ギガイは近くに傅いたままの小隊長の2人を見た。 ギガイの指示を仰ぐために、言葉を待っていると分かっている。無言で跪いているイグールとヴォルフを前に、そわそわしたままのレフラの頬を指でつつく。 「本当にやるのか? ムリをせず、別なことが良いと思うが」 ギガイ自身の提案から始まった訓練だった。だが前回の状況を思えばギガイとしては、すでに止めさせたくて仕方がない。 だからこそ何度も。 『無理をして働く必要はない』ということも。 『他にやれることを確認する。祭りが終わるまで待っていろ』ということも。 あの日から、繰り返し伝えていた。 それでもどうしても出来ることをやりたい、という希望と、あのまま逃げ出すのがイヤだ、というレフラの負けん気に圧されてしぶしぶ了承した状態だった。 (よく長所と短所は紙一重だと言うからな……) だからこれも意思の強さの現れだとは分かっている。だが、こういう時はその頑固さに途方にくれるようだった。 こういったレフラを説得することは、とても骨が折れるのだ。それはすれ違ったあの日々から、ギガイは誰よりも身に染みて知っていた。 「本当に、大丈夫です!」 何度も繰り返し確認をしたせいだろう。もう! と言いたげなむくれた表情がギガイの方へ向いていた。 「とりあえずムリだけはするな」 どうやっても取り止める様子がないレフラへ、ギガイもついに諦める。 そんなギガイの心境は微塵も伝わっていないのだろう。 「はい! 頑張ります!」 ニコッと笑ったレフラの頭を、ギガイは脱力しながらポンポンッと撫でた。 「激励で言った訳ではないのだがな……」 「???」 思わずボソッと漏れた声に、聞き取れなかったレフラが視線をこちらへ向けてくる。何を言ったのか、と尋ねるような視線に「何でもない」と首を振った。

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