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第43 徒花の毒 8
背中に感じるソファーの感触。そのまま頭の位置にあったレフラの太股を枕にする。ギガイの頭が太ももに触れた途端、レフラの手がサラリ、サラリとギガイの髪を梳いてきた。
「でも素直に告げてもギガイ様は大丈夫だ、と仰ってしまうでしょう?」
実際にさっき受けた質問へ、それらしいことを回答した覚えがあるのだから。気まずさに、ギガイは何も反論できずに黙り込んだ。そんなギガイを覗き込んで、レフラがクスクス笑っていた。
「……重くないか?」
華奢なレフラの身体なのだ。
腕の中に抱える時も、寝台の中で抱く時も。いつだってその細く脆そうな身体を壊してしまわないように、細心の注意を払ってきた。そんな自分が力を抜いてもたれてしまえば、レフラの脚を潰してしまわないかが不安になる。
「いくらなんでも、これぐらい平気ですよ。だから、ちゃんと力を抜いて下さい」
フフッ、ともう1度レフラが笑った。その言葉に従って恐る恐ると身体から力を抜く。その弾みに結わえられていない白金の髪が、レフラの耳から滑り落ちた。
人払いがされた執務室の中で、聞こえる雨音が優しかった。レフラの控え目な笑い声に部屋の空気が揺れている。
空気の温度がたったそれだけで、変わるはずがないことは分かっている。それでもレフラが笑うだけで、取り巻く空気が温かいのだ。錯覚だと分かりながらも、感じられるのが不思議だった。
胸を占める感覚のままにレフラの髪を柔らかく引く。ギガイが求めるままに、レフラがもう1度フワッと微笑んで上半身をそっと倒してくる。半身を持ち上げたギガイが、その唇を受け止めた。
レフラの舌先が唇の輪郭をそっと辿り、開いた隙間から差し込まれてくる。
全ての動きがまだまだ拙い。それでも日頃、ギガイから与える口付けを一生懸命になぞっているのか、覚えがある手順のままに触れてくる舌先が微笑ましかった。
(だが舌を差し入れることはまだ無理か)
羞恥心が勝るのか、それとも得てしまう快感に慄いてしまうのか。いつまでも奥まで差し入れることがないまま、浅い所で舌先だけを擦り合わせるように絡めてくる。それに合わせて濡れた音が、ぴちゃっと扇情的に響いていた。それでも快感を追い求めるキスとは異なり、身体に灯っていく熱は緩やかだ。
「はぁ……ふっ……」
レフラの口からわずかに苦しげな息継ぎの音が聞こえてくる。いくら浅いキスだとしてもずっと塞がれたままなのだ。キスをしながらの呼吸に不慣れなレフラは、息が上がっているのだろう。そんな吐息と共に、レフラの唇が離れていった。
部屋の明かりが反射して、濡れた唇が艶めいていた。そんなレフラの唇をギガイが親指で拭っていく。そのまま伸ばした腕でクシャッとレフラの頭をひと撫ですれば、恥ずかしそうにしながらも、レフラが幸せそうに笑っていた。
もう1度レフラの膝上に頭を置いて、ギガイが力を抜いて目を閉じれば、またレフラの指がサラリ、サラリと頭を撫でる。雨の音と温もりと、優しい感触を感じながら、雨季の時期のこの場所で初めて安らぎを感じていた。
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