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第56 抱いた悋気 13
身体が熱で疼いていて、ぼんやりとした頭ではどうやって上手くそれを伝えれば良いのか分からなかった。
(どうして……どうして、触ってくれないの……?)
その指でいつものように、早く触れて欲しいのに。それなのに、重なったギガイの目は満足そうにレフラを見つめるだけなのだ。
だからそのまま熱い息を吐き出しながら、レフラはスリッとギガイの身体に擦り寄った。
「ギガイさま、熱い……です……」
「クククッ、私に触って欲しいのか?」
「はい……」
どうしてそうやって笑うのか、分からなかった。でもそんなことよりも、早くこの熱をどうにかして欲しくて、レフラは潤んだ目をギガイへ向けて、強請るように小首を傾げながら見つめてみる。
「ようやく、私だけを見ているが……ここがどこだか分かっているか?」
「……?」
「周りを見てみろ」
促してくる、そんな言葉のままに、レフラが周りをグルッと眺めた。
「……えっ? あっ、えっ、あの……っ!」
「お前の言葉通りに触るか?」
「ダメです!! 絶対にダメです!!!」
酸素が足りない頭は、どれだけ正常に働いていなかったのだろう。周りの光景を認識して、一気に状況を思い出せば、レフラは自分の発言に情けないぐらいにうろたえた。
もともと宮へ通じるための通路だった。許された人達しか通りはしない場所とはいっても、逆を言えばいつもの護衛の3人やリュクトワスなど許された者は普通に通る往来の真ん中にいる状態なのだ。
「なぜだ? もう触って欲しいだろ?」
確かにそう言ったのはレフラ自身だった。だけど。
「……ギガイ様が、あんなキスをなさるから……」
そのせいで今いる場所さえ曖昧になってしまっただけなのだから。こんな誰かが来てしまうような場所で、行為に及ぶような趣味はない。
「だが、これで、私だけを考えただろう?」
でも続けられたその言葉にギガイの意図が分かれば、レフラはもう文句なんて言えなかった。
「……ごめんなさい……」
「それは何に対してだ?」
「……ギガイ様にイヤな思いをさせてしまって……私もギガイ様が誰かを抱き締めたかも、と思った時に、あんなにツラかったのに……」
結局、レフラがギガイへ与えている苦痛も同じようなことなのだから。
場所もタイミングも考えずに必死になったあの時の自分を思えば、ギガイの行為も非難することなんてできなかった。
「あぁ……だが、矛盾するがな。他の者の中でだろうが、楽しそうに笑うお前は、腹立たしくも愛おしい」
「……」
「お前の言うように、宮へ籠もらせてしまえば、苛立ちは治まるだろうな」
「はい、今後はギガイ様へ不快な思いをさせてしまうことはないと思います」
護衛の3人も基本はギガイと入れ違いでそばに付く。会話さえ気を付けていれば、きっと同じような失敗はしないはずだった。
「だが、楽しげに跳ねていたお前の姿を思えば、な……」
低く深みのある声は、色々な感情を含んだように聞こえていてレフラは目の奥が熱くなる。
「それに。ああやって他の者を気にかけたり、私をネタに騙してみせたり。取り繕っていないお前でいることも、私への甘えなのだろう?」
あの武官とのやり取りを思い出しているのだろう。
微かに口角を上げて微笑みながら、そう言ったギガイの表情にレフラはもうこのまま泣いてしまいそうだった。
そんな中でレフラは何度も深呼吸を繰り返して、涙を必死に堪えていた。
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