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第91 艶やかな毒 4

「初めまして。白族長のナネッテと申します」 「お初にお目に掛かります。レフラと申します」 噂に|違《たが》わない艶麗な容姿のナネッテが、レフラを前に艶やかに微笑んでいた。 膝を折る様子も、頭を下げる様子もないナネッテに、3人から漂う空気が殺気立つ。今にも斬り掛かりそうな雰囲気の中で、レフラが1つ咳き込んだ。 3人がチラッと視線を向けた所で、レフラが小さく首を振る。ギガイの治める武力で、打ち負かしたい訳じゃない。ただ、レフラが持つもので、彼女に負けたくないだけなのだ。 そんなレフラの気持ちを汲んで、射殺しそうな視線のまま、3人がナネッテを睨め付けていた。 「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」 「あら、ただのご挨拶ですわ。あのギガイ様の寵妃となれば、誰でも1度はお会いしたい、と思いますもの」 「あぁ、なるほど。確かに、そうかもしれないですね」 ギガイの寵妃という言葉をサラッと受け流して、レフラがナネッテへ微笑み返す。そんなレフラの余裕が鼻についたのか、ナネッテの口元が一瞬歪んだ。 だけどすぐに表情を戻したナネッテは、レフラの全身をジロジロと見つめた後、朱の塗られた唇に、白い指を添えた。その下で小さく笑ったのだろう。 「クスッ」 嘲笑染みた音が聞こえてくる。 「貴様ーー!!」 すぐ側に立っていたリランが剣に掛けた手を、レフラが服を引っ張って押し止めた。 「申し訳ございません。悪気があった訳では、ないんですよ。ただ……ギガイ様も、ずいぶん毛色の変わったお人形を、お望みでしたのね」 「さぁ、どうでしょうか? ギガイ様のお好みは、存じませんので」 ナネッテの小馬鹿にするような、声音も笑みもなかったかのように、レフラが穏やかに小首を傾げた。それに合わせて、ベールが揺らいで、特別に許された金糸が微かに光を返す。 「その糸は……」 ナネッテが、唖然としたように言葉を切った。 黒色のベールを彩る金糸と銀糸に、気が付いたのだろう。繊細に縫われた刺繍を辿るように見つめたあと、不愉快そうに目を細める。 確かに、レフラの言動や、雰囲気はともかく、身に着けた物の1つ1つでさえ、ギガイにとって特別な存在だと主張しているのだ。ナネッテの神経を、逆なでしていてもおかしくない。それはレフラにも分かりはする。だけど、もしも逆の立場だとしたら。レフラが、ナネッテと同じ行動を取るか、と言えば別だった。 (ナネッテ様のこの態度は、白族自体の不利益になる可能性だって、あるはずなのに……) レフラだってギガイの権力を笠に着て、自分へ頭を下げろ、と言っているわけじゃない。ただ、一族を守る御饌として、常に自分を律して生きてきたレフラには、ナネッテの振る舞いを理解できなかった。

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