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第92 艶やかな毒 5
(仲良く会話が出来るとは思っていませんでしたが、これはあまりに酷い気がするんですが……)
白族がもともとプライドが高い部族だとしても、部族長として大丈夫なのか。ナネッテの態度へ、レフラはこれまでの経験から、そんなことを考えていた。
「……そのベールを拝見する限り、今は本当にギガイ様の寵愛を賜っていらっしゃるようですわね……ただ、この調子では、いつまで保つのかしら?」
「この調子ですか?」
「えぇ。だって、寵妃でありながら、ギガイ様のお好みの1つもご存知でないのでしょう? 本来なら、有り得ないことですわ」
ナネッテは主の好みを把握して、それに少しでも沿うように振る舞うべきだと、言いたいのかもしれない。でも。
「好み以前に、私が私であれば良いと、唯一と求めて頂いておりますから、好みは存じ上げないのです」
挑発的な言葉を繰り返すナネッテに対して、レフラは少し困ったように笑って見せた。
「……まぁ、大した自信ですのね!」
「はい、いつも愛しんで頂いていますから」
伝えれば、さらにナネッテが気分を害するとは、思っていた。レフラとしては、ナネッテの感情を煽りたい訳ではない。だけど、このまま言われっぱなしなのはイヤだった。しかもそれが、事実とは違う、ナネッテの勝手な思い込みによる主張なのだから、なおさらなのだ。
(でも、やっぱり恥ずかしいです……)
今まで愛される経験がなかった中で、ようやくギガイから向けられる愛情に慣れてきたばかりなのだ。それなのに、自分の口から、愛されていることをアピールするなんて。
本当は、何だか申し訳なくて、居たたまれなくて、恥ずかしくて、唸り出したくて……。
まぁ、何が言いたいか、と言えば。ナネッテのことがなければ、絶対にこんな振る舞いはしなかった、ということだった。
気を抜けば、顔だってすぐに真っ赤になるはずだ。それを、嫁ぐ前までの日々で培った自制心で、必死に堪える。そしてレフラは、ギガイに “余所行き用” だと表される、柔らかな表情を貼り付けた。
そんな、いつもと違う姿だからか、ナネッテを睨み付ける3人から、一瞬微妙な空気を感じてしまう。
(……柄にもないって、分かってます……)
あとから3人からも、どんな目を向けられるのか。ますます険しい顔でこちらを睨み付けるナネッテよりも、今はそっちの方が気掛かりだった。
「でもあのギガイ様ですのよ、今日は愛しんで頂けていても、明日もそうだとは、限らないですわ。いつまでその寵愛が続くのかしら?」
ナネッテがレフラの身体をなぞるように眺めていく。そして、よほど滑稽に感じたのだろう。堪えきれない、と笑い出した。
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