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第94 艶やかな毒 7
「差し出せるモノですか?」
「えぇ。ただでさえ、ギガイ様の周りに集う女性達と比べられてしまうでしょうから、私、心配しておりますのよ……」
言いながらクスクス笑うナネッテに、レフラがソッとエルフィル達の方を伺い見る。始めからナネッテを歓迎していなかった3人なのだ。思った通りもう色々限界なのか、早く殺す許可が欲しい、とばかりにナネッテを睨み付けている。
こんな中で平然と、不遜な振る舞いを続けきれるナネッテは『さすが、族長だ!』と、言えるのかもしれない。
だけど感情を露わにする4人を前にしながらも、レフラの心は思った以上に凪いでいる。ナネッテが何を言いたいのかは、分かっている。3人に対しても、怒っていることは、ちゃんと理解している。
(でも、いつものギガイ様を考えると、いまいちピンッと来ないんですよね……)
覇者として君臨するギガイなのだ。レフラへ取り繕うような嘘を吐く必要もない立場の上に、そんなムダなことをする|質《たち》でもない。
だから、腕に抱えられている時に告げられる言葉達は、きっと偽らない言葉なはずだ。レフラは周りのギガイに対する反応からも、それを確信していた。
(他の方々をはべらせる、ギガイ様ですか……)
その上、あのギガイが、レフラとその女性達を比べると、言っているのだ。ナネッテから告げられた内容が、レフラにとっては、あまりに現実味がなさ過ぎて、何1つ心へ響いてこなかった。
(それに、自分以上に怒っている人を見ると、何だか怒りようがなくて……)
チラッと見上げた3人の目は、かなり殺気立っている。彼等としては、斬りつけることがダメなら、せめて威圧ぐらいは向けたいだろう。でもそれさえも、本能的に威圧に怯える跳び族のレフラを心配して、堪えてくれていることは気が付いている。
(だいぶ我慢をさせてしまって、ごめんなさい……)
心の中で3人へ詫びて、レフラがアネッタの目を真っ直ぐに見つめた。
「何も持たない私が、色々な物をお持ちのナネッテ様のような女性の方々に引け目を感じないか、心配だと仰るんですね?」
「……あら、何も持たないなんて……私はそこまでは申し上げておりませんのよ? 」
わざとらしく戸惑った雰囲気を醸し出すナネッテに、レフラは思わず「プッ……フッ……フフッ」と笑ってしまった。エルフィル達へは演技ではなく本当に笑っていることが伝わったのだろう。
「レフラ様?」
突然どうしたのか、と困惑したような声で、リランが代表して聞いてくる。
「も、申し訳、ございません……」
レフラは、慌てて深呼吸をして笑いを治めた。もう一度見つめ返したナネッテは、戸惑いと怒りが混ざり合った、器用な表情を浮かべていた。
「何がそんなにおかしいのです?」
「いえ……ただ、相手が欲してもいない物を一方的に差し出して、満足することは滑稽ではありませんか?」
「何ですって!?」
「皆様が何を差し上げようとしているのか、そこまでは存じません。ただ、ギガイ様がそれをお望みになっているとは思えません。そんな不要な物を一方的に差し上げて、満足されているお姿を想像したら、面白いなと思っただけです」
心の底からそう思って、スラスラと零れ出た言葉なはずだった。本心だからこそ、ナネッテの言葉にも、レフラは思わず笑ってしまったのだ。それなのに、何かが小さなトゲのように引っかかる。
(何が引っかかるんでしょうか……)
自分の言葉を反芻しようとした瞬間だった。だけどその時に、聞こえたナネッテの言葉が、レフラの余裕を掻き消した。
「ですが跳び族でしかない貴方には、何も与えることさえできませんでしょ!?」
一瞬耳を疑った。その次には、意味を捉え損ねているのか、と考えた。そうでなければ聞こえた言葉が、あまりに不愉快過ぎるのだ。
「与える……? 誰に仰っているのですか?」
笑みがレフラの顔から消えていく。
「貴方に決まっていますわ!」
「そうではありません。“誰” に、何を “与える” のか、と伺っているんです」
今まで一欠片も感じなかったナネッテへの苛立ちが、急激に胸の中に湧き上がる。レフラは言葉をひと言ずつ切って、ナネッテへもう1度問い掛けた。
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