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第99 艶やかな毒 12

「お前は本当に、少しぐらいは反省しているのか?」 「はい」 「悪かった、と思っているんだな?」 「はい」 頷いたレフラに対して、何度も念押しのようにギガイが確認してくるのは、負けず嫌いで、淑やかとは言えない、日頃のレフラを見ているせいかもしれなかった。 「今回はごめんなさい、本当に反省してます」 心の底からそう思っていることが、ちゃんと伝わってくれたらいいのに。想いを込めて、レフラはギガイの目元に手を伸ばす。その手が触れるか触れないか、のタイミングだった。 「そうか」 レフラの応えに頷いたギガイが、その手を握って意味深な笑みをレフラへ向けた。 (えっ?) 突然切り替わったギガイの表情に、呆気に取られた瞬間に、掴まれた手をグイッとギガイの方へ引き寄せられる。 近付いた顔にキスをされると思ったレフラが、反射的に目を閉じる。重なるように周囲から|響《どよ》めく声が聞こえてきた。 聞こえた|響《どよ》めきに、外だということを思い出せば、恥ずかしさに一気に身体が熱くなる。だけど、ギガイはもともとキスをするつもりは無かったのだろう。 押し退けようとしたレフラの身体を抱き込んで、唇を寄せたのは、レフラの熱くなった耳元だった。 「それなら、あとから仕置きを受けろ」 そこで聞こえたギガイの言葉に、今度は血の気が引いていく。 耳元で告げられたのは、周りに聞こえないよう、せめてものギガイの配慮だったのかもしれない。 「な、何で!! 」 だけど告げられた内容が内容なのだ。レフラはまさかの “仕置き” という単語に、バッとギガイの顔を見つめ返しながら、思わず声を張り上げた。 しかもさっきまでの表情は、どこにも残っていないのだ。 (ギガイ様に騙されました!!) きっとレフラの罪悪感を、煽る為の演技だった、ということだろう。 突然の大声に、何事か確認するように、左側を護っているラクーシュが、チラッとレフラへ視線を投げてくる。その様子に、レフラは大勢の注目を浴びていることを思い出して、慌てて続きの言葉を飲み込んだ。 こんな会話を、周りの人達に聞かれるのは恥ずかしすぎて、大声で騒ぐわけにはいかなかった。だからと言って、黙って事態を受け入れる訳にも、いかないのだ。 「だって、ギガイ様は『咎めない』って仰ってました!」 ギガイの方へ擦り寄りながら、出来るだけ絞った声量でレフラは必死に抗議をした。 一見すれば、仲睦まじく囁き合っているように見える姿だ。 つい今し方の騒動も相まって、ギガイと寵妃のそんな様子に、動揺が周囲へ広がっていく。 あちらこちらで2人の話題が上がっていることを、必死なレフラは気が付かなかった。 「だが、お前自身も『悪かった』と、思っていることなのだろう?」 「それは、そうですが……」 確かにそう言ったのはレフラだった。そして性格的にも、いくらギガイが “咎めない” と約束をしていたとしても、自分にも非があったことに対して、開き直れるタイプではない。 「このままでは、お前自身を危険に晒しそうだから、言っている。 だが、約束していた分は、せめて考慮しよう」 「でも、でも、痛いのは、イヤです……!」 考慮すると言うギガイが、初めの頃のように手酷い扱いをする、とは思ってはいなかった。それでも “仕置き”と言われれば、前回のことを思い出してしまうのだ。 (たった3回だけでも、あんなにツラかったんです) 1回、1回が重たくて、打たれる度に奥まで痺れる痛みが耐えきれなかったのだ。そのせいで、さんざん泣いてしまったことを、レフラはハッキリと覚えている。 (だから、ここで負けちゃダメです!) 不安で、恥ずかしい記憶を、レフラは首を振って振り払った。そして、なけなしの勇気を振り絞って、ギガイをキッと見つめ返した。

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