302 / 382
第99 艶やかな毒 12
「お前は本当に、少しぐらいは反省しているのか?」
「はい」
「悪かった、と思っているんだな?」
「はい」
頷いたレフラに対して、何度も念押しのようにギガイが確認してくるのは、負けず嫌いで、淑やかとは言えない、日頃のレフラを見ているせいかもしれなかった。
「今回はごめんなさい、本当に反省してます」
心の底からそう思っていることが、ちゃんと伝わってくれたらいいのに。想いを込めて、レフラはギガイの目元に手を伸ばす。その手が触れるか触れないか、のタイミングだった。
「そうか」
レフラの応えに頷いたギガイが、その手を握って意味深な笑みをレフラへ向けた。
(えっ?)
突然切り替わったギガイの表情に、呆気に取られた瞬間に、掴まれた手をグイッとギガイの方へ引き寄せられる。
近付いた顔にキスをされると思ったレフラが、反射的に目を閉じる。重なるように周囲から|響《どよ》めく声が聞こえてきた。
聞こえた|響《どよ》めきに、外だということを思い出せば、恥ずかしさに一気に身体が熱くなる。だけど、ギガイはもともとキスをするつもりは無かったのだろう。
押し退けようとしたレフラの身体を抱き込んで、唇を寄せたのは、レフラの熱くなった耳元だった。
「それなら、あとから仕置きを受けろ」
そこで聞こえたギガイの言葉に、今度は血の気が引いていく。
耳元で告げられたのは、周りに聞こえないよう、せめてものギガイの配慮だったのかもしれない。
「な、何で!! 」
だけど告げられた内容が内容なのだ。レフラはまさかの “仕置き” という単語に、バッとギガイの顔を見つめ返しながら、思わず声を張り上げた。
しかもさっきまでの表情は、どこにも残っていないのだ。
(ギガイ様に騙されました!!)
きっとレフラの罪悪感を、煽る為の演技だった、ということだろう。
突然の大声に、何事か確認するように、左側を護っているラクーシュが、チラッとレフラへ視線を投げてくる。その様子に、レフラは大勢の注目を浴びていることを思い出して、慌てて続きの言葉を飲み込んだ。
こんな会話を、周りの人達に聞かれるのは恥ずかしすぎて、大声で騒ぐわけにはいかなかった。だからと言って、黙って事態を受け入れる訳にも、いかないのだ。
「だって、ギガイ様は『咎めない』って仰ってました!」
ギガイの方へ擦り寄りながら、出来るだけ絞った声量でレフラは必死に抗議をした。
一見すれば、仲睦まじく囁き合っているように見える姿だ。
つい今し方の騒動も相まって、ギガイと寵妃のそんな様子に、動揺が周囲へ広がっていく。
あちらこちらで2人の話題が上がっていることを、必死なレフラは気が付かなかった。
「だが、お前自身も『悪かった』と、思っていることなのだろう?」
「それは、そうですが……」
確かにそう言ったのはレフラだった。そして性格的にも、いくらギガイが “咎めない” と約束をしていたとしても、自分にも非があったことに対して、開き直れるタイプではない。
「このままでは、お前自身を危険に晒しそうだから、言っている。 だが、約束していた分は、せめて考慮しよう」
「でも、でも、痛いのは、イヤです……!」
考慮すると言うギガイが、初めの頃のように手酷い扱いをする、とは思ってはいなかった。それでも “仕置き”と言われれば、前回のことを思い出してしまうのだ。
(たった3回だけでも、あんなにツラかったんです)
1回、1回が重たくて、打たれる度に奥まで痺れる痛みが耐えきれなかったのだ。そのせいで、さんざん泣いてしまったことを、レフラはハッキリと覚えている。
(だから、ここで負けちゃダメです!)
不安で、恥ずかしい記憶を、レフラは首を振って振り払った。そして、なけなしの勇気を振り絞って、ギガイをキッと見つめ返した。
ともだちにシェアしよう!