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第115 琥珀の刻 7
(何を3人へ話しているんでしょうか?)
後ろを気にしながら、リュクトワスに促されるまま、レフラは店の男に付いていく。
「こちらになります」
ガラス細工を満たす液体にレフラが目を大きくした。
「このように、少し金色がかった色味になりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします!」
レフラがニコッと微笑んで、男へ頷き返した。もともと中性的な容姿に、涼しげな見た目が相まって、レフラの姿は神秘的な所がある。それが、こういった瞬間に、フワッと溢れる柔らかな雰囲気は、人を一気に惹きつける。
フェイスベールを使っていても、これだけの近距離だ。薄手のベール越しに、そんなレフラの姿は十分に認識できたようだった。男の顔が赤くなり、目が釘付けになる様に、リュクトワスが眉を潜めた。
男とレフラの間に立って、自分の身体でレフラの姿を隠すようにする。
「色については決まったようだが、確認は以上で良いか?」
「あっ、はい。以上となります」
「それでは、この内容で手配をしてくれ」
戸惑った様子の男を真顔で見つめて、さっさと行けと手を振れば、ようやく我に返っていた。ハッとした顔で慌てて一礼をして、2人の元から去っていく。その姿を見送って、リュクトワスが目の前のレフラへと向き直る。
「レフラ様は琥珀色が、だいぶお好きなのですね。お召し物には、青色や萌黄色の刺繍糸が多いようですが、今後は琥珀色を基調とさせますか?」
突然視界に割り込んだリュクトワスに驚いたのか、青色の目がキョトンと見上げていた。
「あっ。いえ、大丈夫です。青色や萌黄色も好きですから……」
「そうですか。失礼しました。では、今回琥珀色に拘られたのは、何か思うところがあって、ということなんですね」
リュクトワスにすれば、レフラの緊張を解す程度の軽い雑談のつもりだった。だが、その瞬間に目元が赤くなり、顔を伏せたレフラからは、恥ずかしそうな雰囲気が漂っていた。
言い辛そうに俯いた姿に、踏み込み過ぎたことを詫びようとした瞬間。
「……この色が、ギガイ様の目と同じ色なんです……」
言いながら照れているのかもしれない。聞こえてきたレフラの言葉尻は、だいぶ小さくなっていた。
「ギガイ様のですか? 同じでしょうか?」
「はい。あっ、いつもではないんですが……」
リュクトワスが疑問に思いながら、記憶を辿る。
冷たい眼差しで、周りを睨め付けるようなギガイの目は、どちらかと言えば濃褐色に見えていた。正直なところ、こんな暖かみのある色合いだった覚えはない。
だがこの寵妃は、柔らかく開かれたあの主の目を、近距離で覗き込んでいる状態なのだ。光りの入り方で、きっとあの目も、だいぶ違って見えているのだろう。
リュクトワスが改めて、ガラス細工を満たす琥珀を眺めた。
「レフラ様だけが、見ることができるお色ですね」
「えっ……、そうなんでしょうか……?」
「はい。ですが、とても良い色を選ばれたと、思いますよ」
「ふふっ、ありがとうございます。私もこの色は好きなんです」
好きなものを肯定されて嬉しかったのか。恥ずかしそうな雰囲気ながらも、答えるレフラの表情が明るい。さっきまでどことなくあった、雰囲気の固さが薄れていた。
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