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第130 陰る幸せ 2
「私が伺っても、大丈夫でしょうか?」
本当に来て良かったのか。少し心配げな顔で、レフラは側に居るリランを見上げた。
いま4人がいる場所は、ギガイの執務室まで直接繋がる通路だった。出入り口には衛兵が立って、本来は族長以外は立ち入れない場所なのだ。当然ながら、例外的に許された4人以外には、人影どころか物音も全く聞こえなかった。
ここを通るのは、何も今日が初めてではない。それでも、この静寂さは、いつも自分が不釣り合いな場所に居るような気にさせて、レフラを落ち着かない気持ちにさせてくる。
腕の中の籠を見つめていたレフラは、湧き上がった不安に、思わずリランを見上げたのだ。
「特に連絡がない限りは、レフラ様が希望する時には、お伺いしても良いと許可を頂いていますよ」
だから大丈夫だ、とリランが大きく頷いた。
「それに、会議や謁見、視察のご予定もありませんでしたし」
1歩前を歩いていたエルフィルも、首だけ振り返って言葉を続けた。
「それに何より、初めての収穫ですから!」
今度は1歩後ろからそう言ったラクーシュなんかは、これ以上に重要な理由はない、とでも言いたげな様子なのだ。
「でも急ぎではありませんし……それにお忙しいギガイ様のお時間を、こんな事に割いてしまうのも気が引けて……」
仕事の邪魔になってしまうのではないか。気懸かりなレフラに反して、なぜか3人は「こんな事ではない!」と真剣な顔で力説してくるのだ。その勢いに呑まれて気が付けば、レフラは執務室の前まで来ている状態だった。
大きな黒檀の扉を前にして、レフラはゴクッと唾を呑んだ。
本当に邪魔になってしまわないか。こんなことでと、呆れられたりしないだろうか。
何よりも、御饌が本来あの宮から出歩くのは、前例がないことだと知っているのだ。いくら塞ぎ込みがちになった自分の為に、許可をしてくれたとしても、もともとレフラが外と関わることを、ギガイが好んでいないことは知っている。
それなのに、のこのこやって来たことに機嫌を損ねたりはしないだろうか。
心配が尽きなくて、緊張にレフラは3人を見回した。
そんなレフラへ大きく頷く3人に、大きな深呼吸を1度吐いて、レフラがコンコンとノックをする。
通常の者ならここで、所属や名前、用件を述べて入室の許可を確認しているのだ。
「あの……レフラです。ギガイ様にお会いしたいんですが、入っても良いでしょうか?」
声が小さかったかもしれない。もしかしたら、何の為に会いたいのか、用件はもっとハッキリ伝えるべきなのかもしれない。ノックをした直後に、失敗だったかもしれない、と思い至った時だった。
入室許可の声の前に、中から扉が開かれた。
「どうぞ、お入り下さい」
わざわざ扉を開けてくれたアドフィルが、レフラへ一礼をして身体を退かす。
空いた入り口のスペースからレフラが恐る恐る中へ入れば、大きな執務椅子から立ち上がったギガイが、レフラの元に歩み寄った。
「どうした?」
宮でレフラを掬い上げる時のように、柔らかい声音と腕が伸びてくる。腕に籠を持ったまま、ギガイの腕に抱き上げられて、レフラはようやくホッと息を吐き出した。
「突然お邪魔をしてごめんなさい。いま少しだけ、お時間は大丈夫ですか?」
「あぁ、構わないぞ」
ギガイが指の背で、頬から顎下を撫でてくる。その感触が擽ったくて、レフラはフフッと首をすくめた。
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