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第148 かわされた言葉 9

ガンッ!! 扉の開閉というよりは、破壊音に近い音が部屋の外から聞こえてくる。 それから数秒程度で、今度は隣の部屋から、大きな音が聞こえてきた。 寝室の入り口から入ってきた、ギガイが険しい顔で部屋の中を一瞥する。 割れて散乱した水時計。 ギガイを前にしても、レフラに向かって警戒したまま、頭を下げる様子のない2人。 そして、壁際に座り込むレフラを見据えたギガイの雰囲気が、ハッキリと変わった。 「……どういうつもりだ」 ドンッと重苦しい感覚が、レフラの身体に加わってくる。 静かに響いた声なのに、ギガイの激高が伝わるような音だった。 赤い瞳が、レフラの方に向いていた。 きっと威圧を使われている。 増していく重圧感と、本能的な恐怖に身体がガタガタと震え出す。かつてあの武官を前にした時とは、比べ物にならない苦しさと恐ろしさに、握った掌から力が抜けていく。 滑り落ちたガラスの破片が、膝に当たって、床に転がった。そのガラスを追うように、レフラの身体も傾いてしまう。 「ギガイ様! お止め下さい、レフラ様が保ちません!」 とっさにギガイを止めようとしたのか、エルフィルがギガイへ向かって手を伸ばす。だけどその手がギガイの身体に触れる前に、ギガイがエルフィルを払い退けた。 ドンーーッ!! ギガイが最強だと言われる理由の1つは、予備動作なく、全身の筋肉を駆使した攻撃力だった。 大きく払いのける様子がないままで、振り切られた腕のような重たさと、最速のスピードが加わってくる。 受け身を取る暇もなく、壁に打ち付けられたエルフィルの身体が、うめき声を上げて床へと崩れ落ちた。 「そこをどけ」 「ギガイ様、お願い、致します……レフラ様が、保ちません。どうか、威圧をお納めくだ、さい……」 「どけと言ったはずだ」 「っぐ……ッ!!」 庇うように立ったラクーシュやリランの身体も、打ち払われ、同じように傷付き崩れ落ちる。 「やめ、て……ぉねが、い……けが、させない、で……」 それでも、また立ち上がろうとする姿に、レフラはどうにか声を絞り出した。ギガイの威圧の影響を受けているのは、3人だって同じはずなのだ。 それなのに、何度もレフラを庇って傷を負う、3人の姿に心が張り裂けそうだった。 レフラの必死な訴えが、ギガイにどうにか届いたのかもしれない。ギガイの動きが静止した。 「……ごめん、なさい……おねがい、はなしを、させて……こんなこと、したくない……ぎがいさま、こんなの、やだ……」 一瞬の間の後に、フッと身体が押し潰されそうなほどに感じていた、重苦しさが消えていく。 「……それなら、お前はいったい何がしたいんだ……」 呟くようにして尋ねた、ギガイの声音も、また傷付いたような音だった。 「みけ……なくさ……な、いで……」 「跳び族を守れ、という事か? 先に反故にしたのはアイツらだぞ」 「……ごめんな……い、でもみ、けをなくさ、ないで……おねが……いで、す……ぎがいさ、まのこを、こど、くにしないで……おね、が……」 力尽きてレフラの意識がガクッと無くなる。 「……子のためか……」 ギガイの口から漏れた言葉が、傷を負ったリラン達3人の呻き声の中に掻き消された。

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