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第150 夢の終わり 2

レフラは「ふぅ……」と息を吐き出して、顔を上げた。目の前の3人は、心配げな表情でレフラの方を見つめている。 「お答え頂き、ありがとうございます」 そんなリラン達3人に、レフラは心を決めて微笑んだ。 「……私のワガママに振り回し、その上、お怪我まで負わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」 1度決めてしまえば、急速に心が凪いでいく。 「もうほとんど治りかけているんです。だから、レフラ様もあまり気にされないでください」 レフラの雰囲気に戸惑っているのか、躊躇った様子で口を開いたリランに、レフラはペコッと頭を下げた。 「ありがとうございます。今日までずっと、こんな風に優しい言葉を頂けて、感謝をしてもしきれません」 「レフラ様……?」 「いつも寄り添って下さった皆様のお陰で、本当に楽しい時間を過ごせました」 「……どういう事ですか……?」 「…………これが最後のワガママです……お願いします、私の護衛を、辞退して下さい」 言葉の意味を捉え損ねたのか、それとも耳を疑ったのか。3人が唖然とした顔で、一瞬黙り込む。 「それは出来ません!!」 「なぜ、そのような事を仰るのですか!?」 「今回の件は、俺達自身による判断です!!」 その直後の予想通りの3人の反応に、レフラは胸が熱くなった。 一族の中で誰にも気に掛けて貰えなかった自分を、こうやって想ってくれていたのだ。 ギガイとは違うけど。彼らもレフラにとって大切な人たちだった。 だからこそ、レフラは3人が、自分から解放されて欲しいと願っていた。 「皆様が辞退されないのなら、私から解任致します」 「レフラ様!!」 「ギガイ様に次ぐ立場だと、以前仰って居たじゃないですか。だから、皆様が辞退できないのでしたら、私から解任致します。今まで、ありがとうございました。宮からは、早めに退出して下さい」 御饌の立場を失って。ギガイの寵妃でなくなったいま。どこまでレフラの言葉が通るのかは分からなかった。 でも、そのような半端な立場の自分などに、護衛を付ける事もない。それならば、優秀な3人を解任するワガママは、きっと通してくれるだろう。 「レフラ様!? お待ち下さい!!」 ソファーから立ち上がったレフラは、姿勢を正して3人の方に向き直る。そのままスッと腰を折り、綺麗なお辞儀をしてみせた。 「これからの、皆様の武官としてのご活躍を、お祈りしています」 願うのは、彼らが幸せに生を全うして、満ち足りて終えていく事だった。 (そして、出来る事でしたらどうか武官として、ギガイ様を支えてください) 頭を上げて、レフラは3人の顔を見つめた。焦りに満ちた表情は、いつもの3人とは違っていた。 それでも、彼らを見るのも、きっと今日が最後だろう。 顔をしっかりと見つめて、焼き付ける。 そして。 伝わってくれたらいい。そう願いながら、ありったけの感謝の気持ちを込めて笑顔を向けた。 「レフラ様、お待ちください! お話しを!」 背後から呼び止めてくる、3人の声に振り向かず、レフラは寝室へ戻っていった。                 先日のような緊急な状況でもない限り、3人には、レフラを力尽くで制止したり、この部屋に立ち入ることはできないはずだ。 その事を知りつつ、レフラが寝室の扉を閉める。 3人がその扉を、何度も何度も叩いていた。 「レフラ様!」 かつての自分と重なる姿に、何も思わないわけじゃない。 それでも、時間と共に、ノックの音が徐々に消えていく。 レフラは寝台に腰掛けて、ぼんやりとその扉を見つめていた。 気が付けば、あれほど聞こえ続けていた、呼びかける声も扉を叩く音も消えている。静まりかえった寝室で、聞こえてくるのは、外からの穏やかな鳥の声だけだった。 かつてのように、静まりかえった宮の中。その中に、明るい陽光が差し込んでいた。 穏やかな昼下がりの寝室には、もうその光を受けて輝く琥珀色の水時計も、その足元に敷かれていた柔らかなラグもクッションも、跡形もなく無くなっていた。 「……全部……無くなっちゃった……」 初めて得た温もりも。 寄り添ってくれる人たちも。 穏やかに過ぎていく優しい時間も。 定めも、かつてレフラを支えた矜持さえも。 なに1つとして残っていない。 トサッ。 力なく倒れ込んだ身体を、独りにはあまりに大きな寝台が、優しく受け止めた。 目の前には、包帯を巻いた掌があった。 残っているのは、レフラがしでかした事を苛む、包帯の下の傷だけだった。 目の奥が徐々に熱くなる。 だけどレフラの視界が溜まった涙に揺れることは、もうなかった。

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