362 / 382
第158 それぞれの想い 6
「では、私達の幸せと引き換えに、幸せを失ったレフラ様を見て、私達は幸せだと思いますか?」
「…………」
そんな中、続けて聞こえたラクーシュの言葉に、レフラは目を見開いたまま固まった。
3人がどうしてこんなに怒っているのか、何を本当は言いたいのか。ここまできて、ようやく、レフラも分かったのだ。
だって、嫁ぐまで、レフラを気に留める者は居なかった。レフラの幸せどころか、心へ想いを馳せる者も居なかったのだ。
誰かの幸せとレフラの幸せは、いつだって別々に存在していて。レフラが幸せであろうと、なかろうと、それは誰にも影響しなかったのだ。
だから、レフラ自身でさえ、自分の幸せを1番に考えたこともなかった。
「かつてレフラ様を、自分達の幸せのためだけに、供物のように扱った者達と、私達は同じですか?」
「レフラ様の幸せを犠牲にして、平然としている者達だと、お思いですか?」
「ご一緒に過ごしてきた時間は、その程度の価値なのですか?」
3人の言葉が心の底に染み込んでいく。
渇いていた土に水が染みるように、一言一言が吸い込まれる。
「そろそろ誰かの為に、生きるのは止めて下さい」
「レフラ様自身の幸せのために、ちゃんと生きて下さい」
「レフラ様が誰かの幸せを願うように、レフラ様の幸せを願う者がいるんです」
畳みかけられた言葉に、レフラはもうダメだった。
「……ごめん、なさい……ごめ、ん、なさい……」
込み上げてくるものに喉がしまって、上手く声が出なくなる。
「また、おそばでお仕えしても、宜しいですか?」
「……は、い……いっしょ、に……いたい、です……」
「もう、こんなことは、控えて下さい」
「……はい……もう、しませ、ん……」
「ちゃんと、ご自身の幸せを、1番に考えて下さい」
「……は、ぃ……」
何も言葉が出なくなり、コクコクって頷くだけが精一杯のレフラの身体を、後ろで黙って見ていたギガイがグイッと抱き上げた。
「……ぎが、い、さま……ごめん、な、さい……」
「あぁ、もう良い。1度目は許すのだろう?」
ギガイの過ちに、かつてレフラが言った言葉を、なぞった言葉なのだろう。レフラは少し笑おうとして、そのままクシャッと顔を歪めた。
やっぱり、ギガイの傍では、いつもの自分では居られないのだ。
今まで、一滴も湧き上がることがなかった涙が、いとも容易く、次々に両目から溢れ出る。ただでさえ、喉が引き攣って上手く言葉が出ないのに、ますます声は裏返ってしまった。
「……ぎがい、さま……ぎがい、さま……いっしょに、いたい……わたしも、し、あわせ、に、なり、たい……」
それでも伝えたくて、何度も何度もひっかかりながら告げた言葉は、しっかりとギガイにも、3人へも意味が伝わったようだった。ホッとしたような空気が、それぞれから伝わってくる。
「そうだな、私もまだ生まれてもいない子などより、お前が笑っている方が良いからな。お前を想う者のためにも、お前自身を愛しめ」
レフラは伸び上がって、ギガイの首筋にしがみ付きながら、何度も何度も頷いた。
ともだちにシェアしよう!