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第157 それぞれの想い 5
隣に繋がる扉を開く。扉の向こうには膝を着いて、頭を下げた3人の姿があった。
「……どう、して……?」
「私が再任した」
「なぜ……」
「本人達の強い希望だ。遠征地まで押し寄せて、再任しろと迫ってきたぐらいだからな」
「そ、んな……なぜ……?」
「そこからは、当人達に聞け。お前等も頭を上げろ。発言を許す」
「ありがとうございます」
ギガイへ深々と頭を下げた3人が、頭を上げてレフラの方へ向き直る。
「どうして……せっ、かく……」
固い表情の3人を前に、押し出されたレフラの顔が強張っていく。もう2度と会えない人達だと思っていた。それだけに、3人がここに居ることが信じられない。レフラは思わず押し隠していた心情の一端を、ポロッと零してしまう。
「なにが “せっかく” なのですか?」
それを耳敏く聞きつけたエルフィルが、レフラを見据えたまま尋ねた。その声が1度も聞いたことがないぐらいに冷たくて、レフラの身体はビクッと強張ってしまった。
「“せっかく” お払い箱にでもできたのに、と?」
「違います!! そんな事は思っていません! 本当に思っていないんです!!」
あの、いつも飄々としながらも、さり気なく労ってくれていたエルフィルから、こんな風に言葉を向けられるなんて。レフラは1度も、思ったことさえなかった。
しかも、あの別れ方がよほど悪かったのか。エルフィルの言葉は、レフラの気持ちとは真逆の言葉なのだ。レフラは分かって欲しい、と大きな声で否定をした。
「では、レフラ様は、私達に何かご不満でもあったのですか?」
だけど、続けて聞こえたリランの声も、淡々として固いのだ。その様子に、レフラはますます焦っていた。
「違うんです! 不満なんかありません! 楽しかったです! いつも3人には寄り添って頂けて、嬉しかった! 本当です!」
別れることになったとしても、レフラにとって本当に特別な人達だったのだ。
(何と言ったら、ちゃんと分かって貰えますか……)
「……誤解です……本当に、嬉しかったんです……独りじゃないと、言ってもらえて……何があっても変わらない、って言ってもらえて……本当に、嬉しかった……」
だから、レフラが3人を疎んでいるように、思って欲しくなかった。それなのに。
「それなら、どうして、私達を一方的に解任されたんですか?」
聞こえたラクーシュの声さえも、あまりに厳しくて、レフラはついに固まってしまった。
いつもは陽気な人だった。レフラをいつだって笑わせてくれて、何かあれば庇ってくれて。
謁見の時に1度だけ厳しい顔を向けられたけど、それでも、いまの表情よりは断然柔らかかった。そんなラクーシュさえ、こんな始末なのだ。
なぜ3人が、ここまで怒っているのか分からなかった。それでも、間違いなく3人の怒りはレフラの方へ向いているのだ。レフラは何も言えないまま、ただ身体を縮こまらせるように、俯いた。
「…………」
3人の怒りの理由も分からなければ、この後にどうすれば良いのかも分からない。
沈黙が部屋の中に続いていく。
そんなレフラへ3人が、揃えたように「ハァーッ」と大きく溜息を吐いた。
「……レフラ様は解任した方が、私達の幸せに繋がると、そうお考えになったのでしょう?」
リランの確信したような問いかけに、レフラが「……はい」と小さく頷いた。
「そうやって解任をして、レフラ様は、幸せになりましたか?」
「…………どういう、意味ですか?」
だけど、続いたエルフィルの質問は、その意味が上手く汲み取れなかった。
「私達を解任して、清々したと、レフラ様は楽しくお過ごしだったのですか?」
戸惑うレフラへ、表情も変えないまま、噛み砕かれたエルフィルの質問は、さらにレフラを追い詰めていく。
「どうして、そんな事を言うんですか……そんな事を思うはずがないのに……もう会えない、って思ってて、悲しくて、幸せなんか感じるわけないのに……」
訴えた声は、思いがけず傷付いた声音になっていた。
先に3人へ酷いことをしたのが自分だと分かっている。それでもあの日の別れや、その後の日々を、そんな風に思われたくなかった。
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