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第160 それぞれの想い 8

「えっ、夢……?」 ベッドの上で身体を起こしたレフラが、呆然と呟いた。まだ早朝なのだろう。天蓋の中は、だいぶ薄暗かった。 広い寝台の上には、今までと変わらずレフラだけの姿しかなく、恐る恐る触れたシーツは冷たいまま、感じていたはずのギガイの温もりは残っていなかった。 「うそ、うそだ、やだ……夢なんて、いやだ……」 焦燥感に上手く動かない手足でもがいて、寝台の上から這い下りる。つんのめりそうになりながら、レフラは隣の部屋へ走り込んだ。 ガチャ───。 開いた扉の先にあった光景に、ドアノブに手をかけたまま、ズルズルとレフラが座り込む。 突然駆け込んできたレフラの様子に、ギガイと話しをしていたリラン達3人も驚いたのだろう。慌てたように3人が、レフラのそばに駆け寄ろうとした。 「どうした、突然? 何かイヤな夢でも見たのか?」 それを手を上げて制止したギガイが、そんなレフラの身体を掬い上げた。 「レフラ、どうした?」 「……目が、覚めたら、ギガイ様がいなくて…………夢だった、のかと、思ってしまって…………よかった…………」 自分の振る舞いが情けない、と分かっている。でも、夢かもしれない、と思った時の世界が崩れていくような、喪失感があまりにツラかったのだ。 ホッとした気持ちに負けて、レフラはギガイの首筋に、グリグリと額を擦り付けた。 そんなレフラの反応に、緊張していた4人の空気が、フッと綻んだようだった。 「不安にさせて悪かった。また数時間後には発たねばならないからな。この後のことについて、この3人へ指示を与えていたところだ」 大丈夫だ、となだめるギガイの声は柔らかい。3人にしても、昨日見たような冷たい雰囲気はどこにもなく、以前のような優しい顔で、安心させるように笑っていた。 「お前が泣いていては、心配で発つに発てんからな」 ギガイの言葉に、レフラが慌ててギガイの胸から身体を起こす。 「そう言えば、ずっと遠征中だったんですか?」 「あぁ、コイツらも、お前にそう告げただろう?」 今さらどうしたのか? と思っているのかもしれない。 ギガイの言葉に護衛の3人が、コクコクと不思議そうに頷いていた。 「はい……ただ、魔種の討伐の為だと思っていて、まさかずっと遠征中だとは思ってなくて……」 「……なるほどな、それが今回の事態に繋がった、ということか」 驚いたような表情で、しばらく黙っていた4人だった。その中で聞こえてきたギガイの低い声には、グルグルと唸る音も混じっていた。 「ちっ、違います!」 勢い込んだ否定は、そうだ、と言っているようなものだった。レフラが気が付いた時には、冷え冷えする視線が3人の方へ向いており、3人は身の潔白を訴えるように、ブンブンと首を振っていた。 「誰がお前に、そのような誤解を植え付けた?」 「……誰も……」 本当はあの医癒官の言葉がきっかけだったけど、そのことが知られてしまったら、色々とマズイことになりそうだった。 「……まぁ、良い。後日、その辺りはゆっくり確認しよう。今はあまり時間がないからな」 ホッとレフラが息を吐く。だけど、何気に向けた視線の先で、3人が何とも言えない笑顔を向けていた。 (後から、問い詰められそうで、怖いです……) 今回のことで3人にもだいぶ迷惑をかけてしまったのだ。きっと何も聞かずに居てはくれないだろう。 でも、今はそれよりも。 別のことで感じる気まずさに、意識をギガイへ戻してみた。

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