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第一章・8

「ねえ」 「何だ」 「怒ンないの?」 「別に」  先に居たのはお前だろう、と衛は振り向きながらそう言った。 「また、来るの?」 「来てもいいか」  じっと、窺うような視線。  そこで衛は、この少年が何に似ているかに気付いた。  あぁ、猫だ。  そのしなやかな体。  滑らかそうな白い肌。  ひとつに結ばれ、細くすぅっと伸びた明るい栗色の長い髪は、尻尾に見えるのだ。 「時々なら、いいよ」 「ありがとう」  おそらくは、すでにこの温室の主であろうこの猫に、衛は礼を言ってその場を去った。  彼の口から、名は陽というのだと聞くには、もう少しだけ時間がかかった。

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