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番外編 もしもバッドエンドだったなら

※こちらのお話はもしも結末がバッドエンドだったならという思い付きのお話です。 ※死ネタです。 「こ、こんにちは!」 「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」 俺は今、みのりの家に遊びに来ている。 みのりとはおじさんの職場であるマンションの管理人室で知り合った。 俺がマンションの管理人である鈴木のおじさんに“イジメ”られているところを見られてしまったのが出会いだ。 俺は両親からの暴力で家に居られなかったのを父親の兄であるおじさんに助けてもらって、今は両親の元を離れておじさんと一緒に暮らしている。 「みのり…見た目変わったよな」 「そぉ?」 「うん。どんどん女の子みたいになってきた」 「あのね…お母さんとお父さんには内緒なんだけどね。おじさんが僕の事を…ふふふ。お嫁さんにしてくれるんだって!」 「へ、へぇ…」 みのりのお母さんに案内されてみのりの部屋に通される。 子供部屋と言うのがぴったりな背の低い家具に勉強机が置いてある。 俺の言葉にみのりが口許に手を当てて恥ずかしそうに笑う。 みのりは俺より2つ年下らしい。 そんなみのりは初めて出会った時は普通の男の子だった気がする。 鈴木のおじさんと付き合う様になってから髪ものばしはじめ、今では肩までのある綺麗な黒髪を普段は結んでいる。 服装も中性的な格好になっていた。 「髪のばす事、何も言われなかったのか?」 「んー?僕が女の子になりたいって言ったら、お父さんもお母さんもそうなのぉって感じだったよ?なんだっけ…えっとね…たいようけい?」 「多様性な。学校で言ってた」 「そう!たようせいってやつだから、仕方がないねって。だから服もスカートは周りの子がびっくりしちゃうからすぐには変えないでおこうって話したんだ!」 みのりの両親は随分と理解があるようだ。 俺もおじさんに言われてスカートを履いたりはするけど、それはおじさんとの遊びの延長であってみのりみたいに女になりたいと思った事はない。 しかもみのりがいう“女の子になりたい”は別に本当になりたいのではなく、鈴木のおじさんと結婚する為なのではないかと思う。 「これねおじさんとデートに行ったときにかってもらったんだぁ」 「よかったな…」 「でもね、おじさんとおつきあいしてるのバレちゃだめだからかくしてるんだよ」 みのりは嬉しそうに俺に色付きのリップクリームを見せてきた。 適当に返事をしたが実は、俺は鈴木のおじさんが怖い人だと思っている。 うちのおじさんも言葉遣いは荒いし、変態だし、変なプレイを要求してくるし、少し乱暴なところはあるけれど俺に服装の強要や俺自身を否定してこない。 それに比べて鈴木のおじさんは、毎回出かける時にみのりにスカートを履かせお尻に玩具も仕込んでいる様だ。 何でそんな事を知っているのかと言うと、俺がおじさんの仕事についてきた時にみのりが管理人室に鈴木のおじさんに連れられてやってきた。 おじさんは副業で鈴木のおじさんのマンションで守衛のアルバイトをしている。 俺とおじさんも最初は別に普通の叔父と甥の関係だった。 それがおじさんが疲れて酔った勢いで今の関係になったが、最初は変だと思ったけれど両親にも必要とされていなかった俺の身体だけでも求めて来ることが嬉しくて関係が続いている。 そんな俺とは違って、みのりは写真をネタに脅されて付き合いはじめたはずだ。 それなのに、今ではすっかり鈴木のおじさんに夢中になっている。 「あ、おかし食べよ!」 「え?う、うん…」 「そういえば、おじさんよくナイショでおかしくれるんだよ!よるにこっそり食べちゃうんだぁ」 みのりが折り畳み式の机の上にあるお菓子が入ったボウルを指差して、唐突に思い出したのか机からチョコレートの包みを出してきた。 俺はそれを見てギクリとする。 おじさんに釘を刺された事があるからだ。 鈴木のおじさんから貰うお菓子はいくら美味しそうでも食べるなと言われている。 何が入っているか分からないからだそうだ。 うちのおじさんは鈴木のおじさんの友達らしい。 友達のよしみで守衛のアルバイトをさせてもらってるのだとか。 友達で気心が知れているからこそ俺を“イジメてる”動画を撮らせたのだろうし、性格を知っているのかもしれない。 確かにみのりを見ていると、出会った頃より言葉が拙くなった気がしている。 「夜に食べると虫歯になるからほどほどにしなよ」 「うーん。でも、たべると歯をみがくまえにすぐねくなっちゃうんだよね」 「それって…ヤバイんじゃ?」 「えー?そんなことないよぉ」 俺はみのりの言うそのお菓子は何か良くない物が入っていることを確信してしまった。 食べるのを止めさせようにも、みのりは何も警戒してもいないし何を言っても軽く流されてしまうだろう。 何よりみのりは鈴木のおじさんを心底信用しているみたいだし、なるべく異変が無いか気にかけてやろうと思った。 「また来てね千里くん」 「はい。おじゃましました。またな…みのり!」 「うん。またね」 時計を見るとそろそろ帰る時間になっていた。 俺はみのりの家を後にして自分の家に帰る。 みのりの家から15分程で俺がおじさんと住んでいる安アパートにつく。 俺はみのりとは学区が違う為、別々の学校に通っているのでみのりの学校の様子は分からない。 誰かみのりの異変には気がついていないのだろうか。 そんな事を考えるが、親が認めているなら俺は口出す事でもないかなと思い考えることをやめた。 「きょうおじさんのおうちにはじめてお泊まりにいくんだぁ」 「へぇ。よかったな」 「うん!だから、ちさとくんのおうちにおとまりしてる事にしてくれない?」 「え…。それは別に…いいけど」 別の日、みのりと話していたら思いもよらない提案をされた。 鈴木のおじさんの家に泊まりにいくと言ってみのりが嬉しそうにしている。 今日のみのりの服装はミニ丈のワンピースで、背中が腰の上まで開いているのに袖はふっくらとしていて前から見ると背中が大胆に空いてるなんて分からないデザインだった。 俺がはじめてみのりの女装を見た時は服の下に穴の空いた水着を着せられていたはずだ。 服の露出が妙に高いのは、鈴木のおじさんの趣味なのだろう。 楽しそうな様子のみのりの頼みを断るのは心苦しくて了承したが、大丈夫なのかと不安が過る。 「ちさとくんありがとう!この前はおじさんとずっといっしょで楽しかった」 「よかったな…」 はじめての“お泊まり”は上手くいったらしい。 “お泊まり”の後にみのりが家に帰った頃にうちにお礼の電話がかかってきておじさんが対応していた。 もしかしたらこんな事があるからうちに泊まった事にして欲しいといったのかもしれない。 しかもそれを考えたのはみのりではなく鈴木のおじさんだろうということは容易に想像がついた。 それから頻繁にみのりは“お泊まり”に行っているらしい。 俺には程々にするように言う事くらいしかできなかった。 「ええ。こちらには来ていません…そうですか。はい」 おじさんが電話を切るとふぅと大きく息を吐いた。 どうやらみのりが居なくなったらしく、友達や知り合いの家に片っ端から電話をかけているらしかった。 今日はうちに泊まりにくるという嘘の予定もなかったし、そんな話もされていない。 一応毎回口裏を合わせてくれるようにお願いの連絡があるのだが携帯電話を見てもそんなメッセージは入っていなかった。 数日後みのりが居なくなった事は大々的にニュースにもなり、警察も事情聴取とやらに我が家にも来た。 しかし、みのりは行方は分からないままだった。 「あいつ…新しい“彼女”ができたらしいぞ」 「え?みのりもまだ見つかって居ないのに?」 おじさんの言葉に俺は衝撃を受けた。 みのりが行方不明なのに、新しい“彼女”ができたとはどういう事だろうか。 その事件があってから、おじさんはあのマンションに俺を連れていく事をやめた。 何かを感じ取ったのかもしれない。 みのりの失踪事件の後、俺はおじさんの本業の転勤で別の県へ引っ越す事になった。 鈴木のおじさんに挨拶に行くと、隣には最初出会った頃のみのり位の歳の男の子が肩を抱かれて立っていた。 薄々気が付いては居たが、みのりが居なくなったのはおじさんが関係しているのでは無いかと思う。 しかし警察は鈴木のおじさんの事は特に怪しんでは居ないらしい。 証拠を消すのがとことん上手いのだとか。 「みのり…気が付かなくてごめんな」 結局みのりは俺が引っ越してからも見付からず失踪から半年が経とうとした頃、海で遺体で見付かったとニュースが流れた。 距離が遠く葬式に出ることはできなかったが、数年後みのりの墓には来る事ができた。 墓標に手を合わせながらあの時鈴木のおじさんと付き合うのをやめるように言えば良かったのか等と考えたが、そもそもあの人に目を付けられた時点で俺の忠告など無意味だっただろう。 唐突な出会いではあったが、俺にとっては普通の友達とは共有できない秘密を共有できる相手だった。 「千里…行くぞ!」 「おじさんもゆっくり手を合わせろよ!」 「お前はあの子と仲良かったからだろうけど、何人目になるんだろうなぁ」 遠くから声をかけられ俺はおじさんの方へ小走りで向かう。 おじさんの言葉通り、鈴木のおじさんはまた別の子と付き合っているらしかった。 俺は複雑な心境で墓地を後にするのだった。 END

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