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第2話

「おう、お帰ェり」 「…………おやっさん」  自室を開けた先、一升瓶を抱えた男が億劫そうに出迎えて朝倉は脱力した。 「まさかおめェがご丁寧に施錠する日がくるとはなァ」  トキか。 「で、おやっさんは開けて入ってきたのか」  ピッキングで。もしくはチンケな鍵だ。その必要はないかもしれない。  正しく理解した朝倉は社会の首輪ネクタイを緩める。 「庭の方は開いてるとか、おめェ馬鹿か。しかし随分様変わりしたじゃねェかこの部屋。コレでもできたか?」  目尻の皺を深くした赤ら顔で小指を立てられても、全くおもしろくない。視線の先、とんと出番のない元灰皿にはコケだか盆栽だかが知らぬ間に居座っているし、甘ったるい飴はキャラクターの缶から溢れている。 「違う。ただのガキ」 「なんでェ! こさえたか!!」 「……よしてくれ。あんたに言われると(こた)える」  苦く笑えば、湯呑みを放られる。 「――もう、いいと思うぞ」  トク、トク、トク。  問答無用になみなみと注がれ、仕方なしに辛口のソレを呷る。一気に熱を持つ腹。  細められた双眸に捉えられているだろう薬指の輪っか。ふと、その眼差しの向こうに過ぎ去りし日のよく似た瞳を見出す。  朝倉とこの男の間に血の繋がりはない。平たく言えば義理の関係になるのだが、大らかな性格から分け隔てなく接してもらえている。感謝しかない。 「操立てはいらねェ。あいつにも、俺にも」  無言を貫く朝倉に、もう一杯が。  ゆれる水面は、己の信条のように。 「隠してるだろうが」  言い置いて、相手は深い色の目をこちらに向ける。 「元々吸わねェお前が、好きでもねェのにあいつ愛用の銘柄吸ってるのも知ってる。鬼みてェに仕事に明け暮れてるのも、飯食うの面倒がってるのも俺の所に全部上がってる。まともに眠れてねェのも。いい加減にてめェを許してやれ。とっとと先にくたばったあいつが悪い」  存在をズッシリと示す、薬指。 「……それでも、」  乾いた唇から絞り出す声は、無様に震えている。 「それでも、縋らないと生きていけない……」  臆病な自分は。 「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、ホント馬鹿だなァ」  知らず俯いていた肩に、重みを増されて更に沈む。  湯呑みに広がる波紋。 「あいつも、お前も、二人とも俺の大事な(せがれ)だ。しあわせを望まない訳がねェだろぉが」  ――あたたかい言葉に、救われる。

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