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第4話

 御座なりに敷いたせんべい布団で、何をやっているのだろうと半目になる。 「ご指南ヨロシク、おじさま?」  学生カバンを漁り放られたボトルを憎々しげに見つめた朝倉は、潰さん勢いで握り締めていた。よくも白々と、と蹴飛ばすこともできたはずだ。 『拾った動物は最後まで見なきゃいけないけど、俺は猫じゃないからいいよ』  できなかったのは、不要な逃げ道を用意されたからか。切っ掛けには過ぎないが、たかが保護欲だけでここまでトキの面倒を見るのかと自問しても首を傾げるばかりだ。骨を拾う云々に絆されたのかと言われれば、これまた返答に困る。 「……っく、ぁ」  視線を感じる。  しばらく使ってなかった穴はやはり狭い。突貫工事のように絡めたジェルで事務的に広げていけば、綻びていくのが解って舌打ちをしたくなる。 「ボサッとするな、マグロめ」  煽って引き倒して、未成年相手に何をやっているのだと頭の隅で嘲笑する。先ほど互いに作った口腔内の傷を貪って、再び鉄臭さが滲む。もったりと引いて切れる銀糸を視界の隅で追って、そういえばトキは殴られたのだったと遅れて気付く。 「いい勲章だな……ッあ」 「うるさい」  ダイレクトに与えられた裏筋への刺激に堪らず目を眇める。続けて与えられる、含まれた胸元への執着が腰に痺れを生む。 「教えろよ、元ダンナのやり方。――あんたのイイトコロ」 「そん……イッ!!」  低く吹き込まれ、強く食まれる耳朶。 「……死、ね!」 「いいの?」  油を差したようなギラついた瞳で見上げられる。 「…………く、そ!」  自分よりも細い首筋の匂いを吸い込んで、仕返しとばかりに鎖骨に噛み跡を残す。跳ねる反応に気をよくしながら、辿っていく体の中心。根元をくすぐりながら、青臭さを増す幹を育てる。詰める吐息に含み笑いを溢せば、後頭部を掬われて視線を合わされる。髪がない分、ダイレクトに背筋を駆け上がる指先の感覚は慣れない。扱き合いながら、弾かれる先端に雫が滲む。重ったるい水音が辺りに響く。 「……ふ、」  漏らした声は、自分かトキか、それとも両者か。  頬に飛んだ白濁を舐め上げる。ついでにトキの顎に飛んだのにも舌を這わせる。 「ダンナにもやってた?」 「ダン、ナ……?」  頬を撫でられながら、熱に浮かされて反復する。ああ、どうしていたのか教えろと言われたと、手の内にある若い屹立をあやしながら酸欠のぼんやりした頭で思い出す。 「知りたいか? トキ……」  乗り上げながら挑発的に覗き込めば、噛み付かれる。 「やってみせろよ、オッサン」 「ッハ、上等」  グチ。 「っく、」  痺れる下半身を叱咤して、ネツを飲み込む。 「……ッあ!」  慎重に進めていれば、遅いとばかりに下から催促が。  ――こんなのは、知らない。 『ほら、動いてごらん?』  むしろ、自らは動かず目を細めて朝倉の痴態を楽しむ男だった。時には、蠕動する内壁のさまを実況中継し、淫乱だと微笑み、尻タブを叩き、思考力の鈍った朝倉に子供言葉で己の状況を説明させ。己以外を入れるのは業腹だといかがわしい器具は使わなかったが、法律ギリギリの薬は嬉々として使っていた。 「か、はっ!」  飲み下せない唾液で噎せる。  仕込まれたうねりを繰り返す内部を、振り切るような力強さに翻弄される。逃げを打つ腰は押さえ込まれ。舌を噛みそうなほどの突き上げに、驚くほど探られる奥。放られたままだった亀頭を弄られて、声もなくもがくのみ。溺れて肩にしがみ付いたのにすら、熱い肌と別の鼓動から知らされる。 「……ッぁあ!」  遠くに揺れるのが己の足であることに気付いたのは、内蔵を引きずり出されながらも怖いほど潜り込まれた奥の先。遅れて、背に当たる布の感触と、ブレながらも滲む視界に男を映す。 「も……、もぅ……ぃうぅ」  音を上げても許しはもらえず、白濁を吐き出しながらも揺さぶられ続ける。弾けた意識で認識する、爛れた中を掻き混ぜるように回される腰。残滓まで搾り取るかのように、萎えたものを弄ばれ。手のひらで腹部を圧迫され、外部からも存在を植え付けられる。同時に広げられる、ねとつく体液。 「元ダンナじゃない。今、俺を、見ろ」  内側からも与えられる灼熱。更に塗りこめるような動きをされ、恥も外聞もなく噎び泣く。  無意識に求めた口づけは、噎せ返るほど甘ったるい――。 「そおか、まとまったか」 「……」  渋面で無言を貫いた朝倉に、義父は喉で笑う。いつぞや置いていった酒の代わりを寄越せと強請られて、渋々開いた口だったが既に絶賛後悔中だ。片手で顔を覆いつつ、その口では柑橘の飴が遊んでいる。 「めでてェじゃぁねェか」 「おやっさんはそれでいいのか」 「いいも悪いも、おめェの人生だろぉが」  茶目っ気たっぷりに細められた目尻は、長年一緒にいる朝倉にも本心を窺わせない。 「おめェがしあわせならいいに決まってる」  義父の上げる紫煙が風に乗る。視線が一瞬、左手に来た気もするが気取られるような人ではないだろう。 「そろそろタバ休も終いじゃねェか? タヌキ課長にどやされるぞ」  言われつつも、朝倉の手の内には缶コーヒーがあるのみ。 「おやっさんも総監に大目玉だぞ」  それでなくとも、警視総監の懐刀は多忙なはずだ。 「おりゃあいいの。古タヌキの鼻毛の数まで知る仲だからなぁ」  目尻の皺を深くした義父と共に、溜め息ながら見上げた先の旭日章(きょくじつしょう)。 「――やぁっと、あいつの怨念から放たれるかねェ」  いくつか事務的な会話を交わして背を向けた朝倉には、義父のつぶやきは届かなかった。

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