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Trac×× Waltz For Debby/ビル・エヴァンス
2歳になった果穂は、あーたん、と謎の言葉を発しながら俺の後をくっついて回るようになった。
「うっせえな、小便くらい1人で行かせろ」
おちおち携帯も見れやしねえ。この前果穂を膝に乗せて遊ばせてやりながらゲイアプリを見ていたら、優二に怒鳴られた。
まだわかりゃしないだろ馬鹿か。
「おい、構ってやれよ」
優二がダイニングキッチンで食器を洗いながら言う。
「構ってやんのは親の仕事だろうが」
「だったらこっちはお前がやれ」
泡のついたスポンジを突き出され、俺は黙った。果穂は蝉みてえに俺の足にくっついてる。そんで、あっこ、と両手を伸ばした。
「抱っこだってさ」
優二が言う。
「お前もさあ、優二んとこ行けよ」
果穂を抱き上げる。また重くなった。
果穂はにんまりして、あーたん、とまた謎の言葉を発する。
「そうだ、俺、今日帰ってこないから」
「ん?どうした?」
「ちょっと遊んでくる」
「またアレか」
優二は肩を落とした。
「悪いかよ」
「カホと俺を巻き込むような事だけはすんなよ」
「わかったよ」
「あとな、カホの前でそういう話すんな」
優二と話してたら、果穂は俺の顔をペチペチ叩いてきた。
そっちを見るとにーっと笑う。
何がしたいんだコイツ。
「まだわからないって」
「聞いてるもんなんだって」
「ハジメたん」
優二と俺が果穂の顔を見たのは同時だった。
果穂はめちゃくちゃ嬉しそうな顔して、今度はハジメちゃんってハッキリ言った。
驚いた。
俺のこと、肇ちゃんって呼ぶのは姉ちゃんしかいなかったから。
そんで、姉ちゃんと果穂が一緒にいたのは赤ん坊の時だけだったんだから。
「な、聞いてるもんなんだよ」
ユウジが勝ち誇ったように言うもんだからイラっとした。
けれども俺は、カホの前では、少なくともセックスの話はしなくなった。
end
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