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Ⅰ 初恋のつづき②
ドキドキするのはガラじゃない。
たくっ、なにやってるんだよ……
俺よ、落ち着け。
三樹 とは、高校からの仲じゃないか。
三樹 颯真
高1で隣の席になって、寮の部屋も隣同士で。
つるむのに時間は要らなかった。
同じ大学に進学して。
さすがに職場は別だが。
社会人になった今でも、こうして時々会っている。
(……時々か?)
最後にあいつに会ったのは、いつだろう?
「んもー!」
なんだか腹が立ってきたぞ。
2ヶ月前……否、3ヶ月前だったか。
最後に会った記憶を思い出せない。
「俺……なにやってんだよ」
なのに、ドキドキして。
なにもない事は分かっている。
それでも胸の奥が勝手に……
「相手は既婚者だぞ」
三樹は大学を卒業すると同時に結婚した。
なにかを期待する事は間違っている。
(絶対なにもないから)
間違いを犯す勇気も俺にはない。
今日会うのだって、ただの腐れ縁だ。
(晴 君大きくなったかな?)
三樹の息子・晴君と最後に会ったのは、まだ小3だったから。そう考えると時がたつのは早い。
(もう高2か)
腐れ縁のお願いに、俺はとことん弱いらしい。
なんでも進級を迎えて、特進クラスに合格した晴君のキャンパスが替わるとか……
新しい校舎は、実家から遠くて通えない。
直前に入寮の手続きに不備がある事が発覚し、晴君には高校に近い俺のマンションから通学してもらう事になった。
1ヶ月間だけ。
(晴君に会うのは楽しみだ)
三樹の事はどうでもいい。
晴君に会ったら、そうだ!
(あそこのカフェでオレンジジュースをご馳走しよう♪)
晴君はオレンジジュースが大好きだ。
(いや、しかし……)
晴君も高2だ。
(オレンジジュースより、コーヒーとかカフェオレを飲むんだろうか)
だったら、カフェオレだ。
晴君にはご馳走する。
三樹にはおごってやらん。
自分で勝手に頼め!
それにしたって……
「遅い!」
かれこれ三十分だ。
三十分も待っている。
遅刻魔の彼だが連絡くらいあってもいいじゃないか。
どうせ待ったって来やしない連絡なら、俺からしてやろう。
トゥルルゥー
「あっ」
絶妙のタイミングで、手の中のスマホが鳴った。
隠しカメラでも仕掛けてるんじゃないか……と疑ってしまう。
噂をすれば、なんとやら。
スマホを鳴らしたのは、やはり遅刻魔だ。
ようやく俺に許しを乞う気になったか。
(仕方ない。泣いて謝るなら許してやらん訳でもない)
……ん?
ラインだ。
「なにィィィーッ」
急な仕事で来られないだとォォォーッ
……『晴のこと、よろしく♪』
って。
………………
………………
………………
どうやって、晴君を見つければいいんだ?
最後に会ったのは小3の晴君だぞ。
容姿だって変わってる。
お前って奴は、どこまで無責任なんだ。
「三樹ィィィィ~~ッ!!」
「はい」
………………え。
今、返事が聞こえたよな。
背後で。
振り返る。
振り返らなければなるまい。
返事が聞こえたのだから。
「あの……あなたは?」
街灯の下。
春色のパステルトーンのスーツに、ベージュのスプリングコートを羽織った男が、俺を見下ろしていた。
「さっき俺を呼んだでしょ」
呼んだ?
俺が?
さっき?
さっき……って。
さっき『三樹』って。
ま、ま、ま……
「まさかァァッ」
「はい。そのまさかです」
にこり、と。
微笑んだ彼を妖艶に見せたのは、薄く灯り始めた街灯の魔術か。
「三樹 晴です」
桜を失った街路樹から、風が流れた。
「お久し振りです。尋斗 さん」
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