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第7話

「急ぎの仕事が出来ちゃったよ。せわしい人でね、何でも今すぐ欲しくなるお客さんなんだ」  困ったような言い方や尖らせた唇の形が実玖(みるく)の胸の奥を鳴らした。握られた手の感触もじんわり暖かい。 「わたくしもお手伝いします」 「それはお願いしてる範囲外」 「ですが……」  ご主人様のために何でもしたい。一つ屋根に住むのだし仕事もプライベートもなくいつでもそばにいることができるし、何でもすることが務めだと背が高くてなんでもできるカッコいい黒髪の執事が活躍するマンガで学んだ。 「僕は仕事の助手をお願いしたわけじゃないから」  伍塁(いつる)は実玖が用意した客用のお茶の盆を手にした。実玖はそれを掴み自分のほうに寄せる。 「わたくしは伍塁様にお仕えしたくて来たのです。身の回りのお世話と助手も兼ねさせてください」  返事を待たず応接間に向かった。  お茶を出して戻ってもう一度、仕事も手伝わせて欲しいとお願いした。踏み出しすぎていると思ったがそばにいるためだ。腰を深く折り人間の形になった自分の長い足を見つめ続ける。  顎に指を当て口を尖らせながら、深々と頭を下げる姿を見つめた伍塁はふーっと息を吐いた。 「時間がないから家の中を探しながら案内しよう。あ、探すっていうのはお客さんからの依頼の品なんだけど」  伍塁は応接間に顔を出し、探してくると伝えた。 「あの人、言い出したら聞かないんだ」  あきらめたように言う伍塁の後をついて実玖は階段を登った。二階の部屋には木の手すり付きの窓があり、遠くまで見えて気持ちがいい。ミルクが昼寝をしたお気に入りの場所だ。 「今から探すのはこのくらいの木の箱」  親指と人差し指を直角に開いて向かい合わせ、箱の大きさを示してみせた。 「もしかしたらしまった時に『ハエ取り機』とか書いたかもしれない」 「『ハエ取り機』ですか……」 「そう、この部屋のこっち側のどこかにあるはず」  伍塁は棚に並べられた箱を目で追いながら目的のものを探している。実玖は隣の棚を同じようにそれらしいものを探してみる。 「今探してるのは戦前に作られた、ゼンマイで動くハエを捕まえるカラクリ箱みたいなものなんだ。うちにあるのはその三号機。特に骨董として高い価値があるものじゃないけど」  棚に並ぶ箱をずらしたり、その奥を覗いたりしながら伍塁は説明をした。      

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