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第10話
箱に入ったハエ取り機さんは、何を思っているのだろうか。実玖 は伍塁 の後をついて応接室にはいり、そこで控えることにした。
「あったか?」
「お待たせしました、探しているものと同じかどうかわかりませんが」
伍塁は身を乗り出す田中の前に木箱を置いたが、慌ただしく蓋を取ろうとするのを制した。
「田中さん、落ち着いて。僕の商品は皆、僕の分身です。手荒にされたらお渡しできませんよ」
田中は手をこすり合わせて慌てて出した手を誤魔化すように引っ込める。
「おお、そうだったな。わかってるぞ、うちの収集品もみな大切にしておるのを知ってるだろう」
小さく咳払いをし改めて恭しく木箱の蓋をあけ、中の布ごと箱の外へ取り出した。布をめくり姿を確認し
「動くのか?」
と、ゼンマイを差し込み数回まわした。パタン……パタン……と動く様に田中は目尻をさげている。
「いかがでしょう?」
「懐かしい。こうして見ているだけで気持ちが落ち着く。癒しのカラクリだな」
同じリズムを繰り返し動くハエ取り機の羽根の音が緩やかな空気を作り出しているようだ。単調なリズムを静かに楽しんでいたが次第に動きが遅くなり動かなくなった。
「頂いていこう、後で請求書を届けてくれ」
「ありがとうございます。どうぞ末長く大切にしてあげてください」
「わかっとる! いつも大袈裟だな」
「すみません、僕なりの見送りの言葉だと思ってください」
勢いよく立ち上がり箱を抱えた田中を見上げて微笑む伍塁に、実玖は更に姿勢を正して胸を張った。
(やっぱりわたくしのご主人様は素敵な人だ!)
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