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六條家にやってきた 最終話
「一緒に食べよう、実玖の席はここ」
向かい側を示して伍塁は味噌汁に口をつける。
「わたくしがご主人様と同席で食事をするなど」
「ご主人様がいいって言ってるんだからいいだろう? ほら、早く温かいうちに一緒に」
実玖は迷いながらも手早く自分の分をよそい正面席に座った。伍塁が座る椅子と実玖の座る椅子は形が違うが不揃いなところがいい味を出している。骨董店では不思議ではないかもしれないが、実玖の今までの視点では気づかなかったことがたくさんあった。
「では、失礼していただきます」
手を合わせお椀を持ち上げ、箸置きに置かれた箸を習った手順通りに左手で支えてから右手に掴み、フゥフゥ吹きながら少しだけ口につける。
「あつ……」
少しは冷めているはずだが実玖にはまだ熱かった。気を取り直して急須から湯のみにお茶をふたつに分けながら注ぐ。これも熱いからすぐには飲めない。
「どうぞ」
お茶をすすめてから冷め始めた丼の隅をつつく。まぁまぁの出来だ。
「ねぇ、なにこれ。このちくわ美味すぎる」
「マヨネーズで炒めただけですけど」
「生のちくわときゅうりにマヨネーズが最強だと思ってたけどさ、最強はこれだな。また作って、て言うか作り方教えてもらわなきゃ」
「本当に炒めて醤油をかけるだけなんですけど」
簡単すぎて教えるなんて恥ずかしいけど、喜んでもらえるのなら実玖がここに来た甲斐があるというものだ。それに伍塁は褒め上手で実玖は何か言われるたびに熱くなったりドキドキしたり忙しい。
「美味しいご飯が食べられるのは幸せだ。明日からもよろしく」
実玖はやっと食べ頃になったツナ卵丼を口に運び伍塁を見て頷いた。
〈六條家にやってきた 了〉
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