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第17話 服を買ってもらった

 10分ほど走り駐車場に車を停めて、明るく天井が高い店内に入る。  シンプルな棚には、色ごとに綺麗に畳まれたシャツが積み重ねられていた。近くにそのシャツをコーディネートしたマネキンがポーズをとっている。    その横を通り抜けていく伍塁の後を実玖はついて行った。 「寝る時はこれでいいかな」  サンプルの手触りを気に入って、伍塁は実玖にも触らせた。  実玖は、貸してもらったパジャマでいいのにと思っているが、そういう訳にはいかないのもわかっている。 「伍塁様のお見立てでお願いします」 「これでいいならいいけど」  背中に当てて大きさを確認し、買い物かごにスウェットの上下を二セット入れてまた棚の間を歩いて進む。 (同じ目線で歩けるってこういうことなんだ)  実玖はずっと伍塁の後ろをついて歩いていたが、それは足元や塀の上だった。今はこっそりついて行くのではなく、一緒に歩いている。  それもニンゲンとして。 「Tシャツはどれがいい?」  胸によくわからない模様が描いてあったり、人の顔がプリントされていたり、何を基準に選ぶというのか。 「よくわからないです」 「好きなのでいいんだよ。色素薄い系だからなんでも似合いそうだけど」  実玖は「シキソウスイケイ」がよくわからず知識の不足を感じ、さっきまでのニンゲンになった喜びはどこかへ行ってしまった。 「申し訳ありません。勉強不足で選べません。伍塁様に選んでいただきたいのですが」  伍塁から目をそらすように下を向く。 「わかった、今日は僕が選んでおく。もし欲しいものが出来たら、またそれを買えばいいから」  伍塁は左右を見渡して数枚のTシャツ、カジュアルシャツを選び、コットンパンツを手渡して実玖を試着室に入れた。 「これ、試着して。サイズ合うかな」  カーテンの中に入れられた実玖は、トイレみたいな狭い部屋で伍塁が選んだコットンパンツを履いてみた。くるぶしより少し上で足首が心もとない。 「あの……伍塁様……」  カーテンの隙間から外を覗き、どうしてよいかわからず伍塁を探した。 「どお?」  カゴにたくさんの商品を入れて伍塁が戻ってきた。 「少し短くないでしょうか」  伍塁はカーテンを開け、恥ずかしそうに斜め下を向いている実玖の頭に手を伸ばして、ポンと置いた。 「ピッタリだよ、こういう丈だから。僕よりもちょっと背が高いよね。似合ってる」  下を向いたまま上目遣いで見ると、伍塁は目を細めてもう一度ポンポンと頭に手を置いた。それから持ってきたカゴから出した服を体に当てて言う。 「これと合わせてもかっこいいな。そのシャツ脱いでこれも着てみて」  実玖が着替えて伍塁を呼ぶと直ぐにカーテンが開いた。 「それ、そのまま着て帰ろう」  実玖が驚く間もなく伍塁は店のスタッフを呼ぶ。何かを言おうとする前に会計を済ませてしまい、靴下と靴も履き替えさせられ、着替えて脱いだ服もショッピングバッグに入れてもらった。 「じゃあ次に行こうか」  実玖は足首まで届かない靴下とコットンパンツ、柔らかい靴のスカスカする感じを新鮮に思いながら伍塁の後を着いていく。 (伍塁様が着てる服みたい)  鏡に映った自分の姿と、それを肩越しに覗き込む伍塁の顔を思い出して顔が緩んだが、気づかれる前に手の甲で前髪を撫で下ろして気持ちを落ち着かせた。

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