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第18話 ふれあう髪

 次にやってきたのも大きな建物で、ショッピングカートを押している人がたくさんいる。外には鉢植えの花やブロック等が規則的に並び、テントの下にあるレジに並ぶ人の列もあった。  実玖は沢山の人に視線が定められず、目が回りそうになり伍塁のすぐ後ろまで近寄った。視界に伍塁だけ入れるようにしておけばいい。 「皆さん、たくさんお買い物するんですね」 「生活用品をまとめて買いに来てるんじゃない? ここは食品も売ってるから」  カートにカゴを乗せて慣れた様子で店内に向かう伍塁は、いつもここで買い物をするのだろうか。 「それ、わたくしが押します」  カートを伍塁から受け取り両手で押して歩くと、おもちゃで遊んでいるような気分だ。軽い足取りで店内を進む。斜め前にはすっと伸びた伍塁の背中。ミルクならすぐに飛びつくところだ。 「シャンプーとか、こだわりは?」  実玖は棚を見回す伍塁の横顔に丁寧に答える。 「ありません、ある物を使わせていただきます」 「じゃあ僕と同じので」  伍塁が詰め替え用のシャンプーとリンスを選ぶのを見ていて、実玖は壁一面がシャンプーであることに気がついた。 「こんなにたくさんの種類があるんですね。何が違うのでしょう」 「香りとか、髪質とか仕上がりの違い? よくわかんないけど」  伍塁は実玖の髪に手を伸ばした。 (わ……! 今日、何回も頭を撫でられてる……) 「さっきも思ったけど、柔らかいよね。僕の髪質と全然違う」 「そうなんですか」  震えるようなむずむずが首のうしろを往復する。 「うん、気持ちいいやわらかさ! ほんとに猫のミルクみたい」  髪に指を何度も通されて実玖はポッと顔に熱を感じた。 「伍塁様の髪も柔らかいと思います」  実玖はふと、猫の時に髪を噛んだことを思い出してみたかったが、その感覚を忘れてしまった。 「わたくしも触ってみていいでしょうか」 「いいよ、結構かたいと思う」  頭を傾けたらサラサラと黒い髪が流れた。自分の髪とは違う細くてハリのある髪が、ニンゲンになった長く細い指の間に引っかかって抜けていく。  手で触るとこういう感じなのかと気持ちよくて何度か触り、ふと我に返って手を引っ込めた。伍塁は気にする様子もなく、手ぐしで髪を整えながら今度は背中側にある棚を見ている。 「髭剃りとか化粧品とかは?」  そうだ、ニンゲンはたまに猫や犬みたいな毛が口の周りにあるものもいるが、ほとんどの人はのびていない。髭剃りは生活実習訓練で実玖も習ったが、この今の姿はあまり生えないから忘れていた。 「髭剃りはどんな物がよいのでしょうか。必要だと思いますが、伍塁様はどのようにしているのですか」 「僕はあまり濃くないから週に一回か二回、こういうのでお風呂の時に」 と、パッケージに入ったものを見せてくれた。T字型のものだ。 「使い方はわかるよね」  伍塁は実玖の返事を聞かずに髭剃り用のフォームと一緒にカゴに入れる。 「たぶん、わかると思います。使ったことあるものと似ています」  実玖はまた伍塁と同じものが増えたことに喜びを感じて、カートを軽やかに押していた。  ふと、遠くに見えたのは、知っている色と形。きっとあれは猫の缶詰だ……。ちょっと見てみたくて方向を変えたその時、後ろから何かに激しく当たられ、体ごと倒れ込んだカートが勢いよく通路を走りだした。

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