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第21話 初めてのスマホ

「次はスマホだな、上の階へ行こう」  伍塁に連れられて進んだ先で、上階に向かって階段が動いている。  あれは「エスカレーター」だと実玖は知っている。もうひとつ、箱で上がるのは「エレベーター」。名前がややこしくて頭の中でいちいち、どちらが階段でどちらが箱か考えなくてはならない。  先に歩く伍塁がエスカレーターに乗って実玖も続こうとしたが、段差が気になって止まってしまった。 「どうした?」  上へ運ばれていく伍塁が見ている。 「タイミングがわからなくて……」  階段が次々現れるのを見送って、手を握ってリズムをとり伍塁がそろそろ上に着く頃、足を踏み出すことが出来た。乗ってしまえば簡単だった。今はニンゲンだから足は長くて一歩も幅広い。挟まったり引っかかったり、危ないことも少ない。 「すみません、遅くなりました」 「いや、いいよ。見ててちょっと可愛かった」  伍塁は降りるのを見守って、一歩踏み出した実玖の背中を押して並んで歩く。 「次は大丈夫です、伍塁様のように乗ることが出来ると思います」  実玖の言い方に伍塁は笑いを押さえ、背中に当てている手でポンポンとたたいた。  伍塁は近くにあった新商品コーナーでタブレットを触った。動画配信サイトを検索して実玖に見せる。 「わ、猫がいっぱい。テレビですか」 「テレビとは違うんだけど、なんていうのかな。見たいものを探すと、ほとんどのことは出てくる……テレビ……かなー」  次にプリンの作り方を検索した。 『では、今日は私がおすすめする簡単なプリンの作り方を紹介していきますね! 材料は卵と砂糖、牛乳、あればバニラエッセンス……』  女性が元気に説明を始める。 「今は、プリンの作り方を探したんだ」 「伍塁様はプリンが好きですか?」  実玖は画面から目を離さず、じっと作り方を見ている。その顔は真剣だ。 「そうだね、久しぶりに食べたくなったかも」 「作り方はわかりましたので、わたくしが作ります」  実玖は張り切って伍塁に宣言した。 「ほんと? 嬉しいな。でも先にスマホを契約してこよう。スマホは僕のとおなじでいい?」 「わたくしは使ったことがないのでお任せします」  カウンターに案内され、伍塁名義でスマホを契約した。伍塁は黒いケースを付けているが、実玖は同じデザインのベージュを付けてもらう。またひとつ、同じ持ち物が増えた。  ついで実玖用のタブレットも用意してくれた。 「使い方は帰ってから教える」 「楽しみです、ありがとうございます。伍塁様のためにたくさん学びます」  実玖はスマホもタブレットもお仕えするための道具だと思っている。 「やっぱり実玖はまじめだなぁ」 「わたくしは真面目に学んでます」  今度は自分でドアを開けて助手席に座り、シートベルトを締めながら答えた。伍塁に、できましたよと無言で視線をおくる。 「実玖はそのままでいいのかな」  左右を確認して車を出し、大切そうにスマホとタブレットの袋を覗き込む実玖を横目で見る。  今日もいろいろ面白いことがあったと思いながら車を走らせた。  実玖は電話のかけ方、メッセージの送り方と検索の仕方、動画の見方など基本的なことを教えてもらった。ガレージを自動で開けるアプリも入れてもらった後、伍塁は仕事をするからと台所から出ていった。  今日のデザートはプリンをつくると決めた実玖は、ブラウザを開き『プリンの作り方』を検索した。 「……プリンの作り方がたくさんありすぎる!」

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