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骨董屋仲間?

 門の前に停めてある大型の白いワゴン車は、柏木が乗ってきたものだ。実玖(みるく)はほとんど何も載っていない後ろの席に乗り込んだ。 「いつから家政夫くんは伍塁(いつる)のとこにいるの?」  柏木はハンドルを切りながら、伍塁に聞いてるのか実玖に聞いてるのかわからない聞き方をした。実玖は運転席の後ろから助手席の伍塁の顔を見ようと、顔を傾けると伍塁もこちらを見ていた。  伍塁は、あわせた目を細めて実玖に合図し、柏木に向かって言った。 「去年の秋からだよ。もう家のことは何でも頼めるし、仕事も覚えてもらってるから家政夫じゃなくて僕の右腕かな」  実玖は、右腕が役に立つ人のことだと知っている。むずむずする誇らしい気持ちで伍塁の横顔を見た。 「へぇー。俺の知らないうちに若い男連れ込んで」  柏木はニヤニヤしながらルームミラーに目を向けて実玖を見た。実玖はその視線に困って、視線を外すが戸惑いを隠すことが出来ない。こういうところがまだニンゲンとして足りないと思ってしまう。 「なにオヤジみたいなこと言ってるの。年長者の変なとこは真似しなくてもいいのに」  なんとなく胡散臭い話し方をする柏木と伍塁の仲が良いと思えなかった。そういえば、今まで伍塁の友達らしい友達に会ったことがなかったし、話を聞いたこともない。仕事をしているか映画を見ているか、本を読んでいるかパソコンに向かっているのだ。  そんな伍塁がこの胡散臭い男と友達とは思えない。 「おふたりはどんなお知り合いなんでしょうか」  実玖の言葉にわずかな苛立ちが乗っていた。 「俺たちはイケナイコトする友達、ねー」  信号で止まった柏木は、ハンドルに両肘をかけて伍塁に向けて首を傾げる。 「実玖に変なこと言わないで! こいつは大学のゼミが同じだっただけ。仲がいいわけでも友達でもない。ただの同業者」 「えーーー冷たいなぁ、伍塁ちゃん」 「気持ち悪い」  柏木に対して伍塁は冷たい態度であしらっているように見えるが、かえって親しさの裏返しな気もする。やはり実玖はその関係が気になって仕方がない。 「伍塁、いつも俺には厳しいんだよ! まぁ、伍塁はツンデレだからな。そうそう、今日(うぶ)だしに行くとこなー、元酒蔵の社長の家なんだけどさ」  突然仕事の話に切り替わったので話を聞き逃さぬよう、実玖は気持ちを切り替えた。 「道路拡張で立ち退きになるんだって。今住んでるのは奥さんだけ。社長は亡くなって酒屋は廃業。息子達は独立してて、奥さんはマンションに引っ越し済で、あとは壊して更地にするって」 「いつ頃の建物なの?」 「150年くらい前って言ってたかな? 蔵もある。たぶん自宅兼事務所だったところ。建物も勿体ないんだけど、ガッツリ計画道路にはまってるから仕方ない」 「じゃあ梁とか柱は? 建具はどうするの?」 「任せるって言われてるから、伍塁よろしく」 「やっぱり」  伍塁は柏木に向かって顔をゆがめ、ポケットから出したスマホに指を滑らせ、探した場所をタップした。 「あ、藤本さん。こんにちは、伍塁です。ご無沙汰しています」  ひとしきり季節の挨拶をした後に話を切り出した。 「今、築150年っていうお宅に向かってるんですが、壊すそうなんです……はい……そう、もしよろしければ……都合のいい時に。今日来ます? ……写真は撮って送ります……はい、よろしくお願いします。失礼します」  外の景色を見ながら話していた伍塁は、通話が終わり実玖を見た。 「後ろの席、揺れるけど大丈夫?」 「大丈夫です。お気づかいありがとうございます」  実玖に向かって目じりを下げる伍塁に、柏木はまた二人のことについて口を挟む。 「なんかさー、二人ともカタくない? なんでそんな言葉づかいなの?」  実玖は耳としっぽがピクンとするような感情が高まる言葉が口から溢れそうだったが飲み込んだ。お仕えする者はいつも平常心を保たなければならない。 「ご主人様に失礼があってはならないので、これが通常です」 「実玖はちゃんとしてるの。言葉も仕草も丁寧で落ち着いてるんだよ。もう少し、くだけてもいいと思うけど、お前と一緒にするな」  褒められてるのか、庇われてるだけなのか。いつもの伍塁と少し違うだけなのに距離を感じてしまい、やっぱりニンゲンは本当の人間にはなれないんじゃないかと思ってうつむいた。  でも、今は仕事をしているのだ。右腕にならなければと、実玖は仕事モードに切り替えようと質問をした。 「伍塁様、初だしとはなんでしょうか」  伍塁とお客さんの所へ行ったり、古物市場に行ったり、買取の相談を受けたり、アンティークイベントに出店したりと一通り仕事に同行したと思っていたが、まだ知らないことがいろいろありそうだ。 「初だしはね、いろいろな意味があるけど今言ってるのは、個人の家の持ち物を初めて買い取ったり査定したりして引き取ること。骨董屋がやったり、今はお片付け専門業者とかいう名前でやってるところもあるね」 「市場に出る前のもの、ということでしょうか」 「そう、そんな感じ。古い家には何かと眠ってるもんだよ」    150年と言っていたから、前に伍塁が言っていた「古い」の基準だ。 「素敵なものがあるといいですね」 「ありそうだから誘ったんだ、ありがたいだろ?」  柏木が調子よく答えたのに、ぎこちない笑顔で実玖が応えた。それを見た伍塁は片目を瞑って実玖に微笑み同意した。

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