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アンバランスな
16時50分……あと10分だ。
時計を見て、俺……中居悠貴 は静かに笑みを漏らす。
平成31年2月22日、にゃんにゃんにゃんで猫の日の今日は恋人のナオちゃんと付き合って1年の記念の日。
だからこそ定時までに仕事を終わらせたんだ。
こうしてるうちにも刻まれている幸せのカウントダウンを俺は目を閉じて聞く。
「中居、これ明日までによろしくな」
悪魔の命令の後に聞こえたのはドスンと重みのある物が置かれた悪魔の音だった。
俺は薄目を開いて見ると、机上の左側に膨大な資料の束が積み重なっていた。
「やってくれるよな? 中居」
資料の脇から言われた上から目線の先をぼんやり見ると、ゆるい七三分けの黒い前髪に細縁の眼鏡を掛けた竹富 課長がニヤリと笑う。
「あの、俺……」
今日、今日だけはダメなんですと続けようとした途端、竹富課長の顔が歪む。
「あ? 女とデートか……仕事ナメてんじゃねぇぞお前!」
血走った目、ドスの聞いた低い叫び声……まるでしつけをされていない犬に噛み付かれたような憂鬱さが俺の身体を蝕む。
狂犬課長と陰で言われてるだけある彼の威圧感に負け、俺はやりますと返事するしかなかった。
「すいませんでした」
せめてと誠意を込めて頭を下げようと立ち上がった俺。
しかし、竹富はさっきとは打って変わり、優しく肩を2回叩く。
「気持ちなら受け取ったから、立つな……お前は信じてるから」
穏やかに言った竹富課長は自分の席に戻っていった。
17時になり、チャイムがオフィス内に鳴り響く。
座っていた社員が帰り支度を済ませ、お疲れ様でしたと言う言葉を後に次々と去っていく。
俺を含めた平社員が机を並べているところから離れた課長席にいる竹富課長もカバンに荷物を詰めていた。
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