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ゴン主任と伊月先輩
そこにゴン主任……福原権兵衛 がカバンを片手に近づく。
こげ茶の短髪に垂れた一重の瞳、口元のほくろが特徴の彼はムードメーカー的存在で上司らしくないと俺は内心思っている。
「たけちゃん、いつもの場所に行こっか?」
ニコニコと微笑むゴン主任に竹富課長は顔を赤らめ、慌て始める。
「バカッ、こんなところで言うなって!」
ゴン主任の肩を2回強く叩く竹富課長。
それを俺は淡々と眺める。
ここ……公共の場だし、ましてや会社なんだけど。
それに相手は社長の息子なんだよな。
「なに恥ずかしがってんの? あっ、僕とのデートみんなにバレたからか……いや〜ん」
クネクネと身体を揺らすゴン主任を隠すように捕まえた竹富課長。
なぜか一瞬俺を睨んでから、そのままゴン主任を連れて部屋を出ていった。
「竹富課長とゴン主任ってデキてんのかな」
1人になった俺はふとつぶやいてみる。
「いや、オレはビジネスイチャイチャだと思うけどなぁ」
ふいに聞こえた声に驚いて横を見ると、資料は半分に減り、黒髪のゆるふわパーマがかかった男性……山中伊月 がパソコンの画面に顔を向けていた。
「伊月先輩、帰んないんすか?」
「帰ってもいいけどさぁ……今日、1年記念日だって聞いてたから、助けてやりたいじゃん?」
一応先輩だし? なんてキメ顔されたら、俺はお願いしますとしか言えなかったんだ。
資料を見てみると、市場調査が店舗ごとにまとめられていたものだったから、ちょっとだけ竹富課長に感謝する。
ここは竹富食品株式会社という主に焼き鳥を製造している会社なんだ。
そこの商品企画部マーケティング課に属していて、小売り先での売上を種類別に集計したり、開発課の新商品を味見したりするのが仕事。
それをまとめているのが竹富課長、年は俺と2つしか変わらないのにかなり偉いんだ。
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