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大好きっすよ
「まず狂犬課長に恋人が出来るなんて考えられないんだけど」
竹富課長の悪口を言う時だけ声が低くなる伊月先輩。
「竹富課長って社長の息子さんっすよね? ゆくゆくは社長夫人なんて玉の輿だから、女子は飛びつくんじゃないんすか?」
軽く考えたように高い声で言って、俺は素早く指を動かす。
「確かに肩書きは悪くないし、顔も良いけどさ
……性格がキツイのは重大な欠陥だな」
「女の前では変わるとか、意外と気弱になったりして」
「いや、ないな」
「ゴンさんの前では結構かわいい感じになってますし」
「あれはゴンちゃんのパワーかな……というか、あれオレなら吐き気がするけど」
カタカタとキーボードを叩く音を止めずにパソコンの画面を見ながらテンポ良くやり取りを交わす伊月先輩と俺。
「なんでそんなに竹富課長を嫌うんすか?」
何気なく聞いた俺の言葉の後、伊月先輩のタイピングが止まる。
「聞いても引かないか?」
絞るような声に俺は思わず伊月先輩の顔を見る。
思い詰めたような顔をしていた伊月先輩に穏やかな微笑みを向け、はいと答えた。
「恋人だったんだ……竹富、とみたんと」
静かに言い放ったその言葉に目を見開いた俺だけど、すぐに穏やかな微笑みに戻る。
「しっかりした人だと思って俺から告白して付き合ったんだけど、あいつはオンオフがなくてずっと俺様でな……疲れちゃったんだ」
語り終えた伊月先輩は遠い目で前を向いてから外を見る。
俺も外を見ると、淡い橙色の光が街に染まり始めていた。
「俺なら優しい伊月先輩をドロドロに溶かすくらいの優しさに包んで見せますけどね」
びっくりした伊月先輩が振り向こうとするのを妨げるように俺は柔らかく抱きしめる。
「大好きっすよ、伊月先輩」
耳元で囁いた俺の甘い声に負けたのか、伊月先輩は目を閉じ、ありがとうと小さく呟いた。
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