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エロい目線
俺、知ってますよ。
バレンタインさえ甘い雰囲気にならなかったのがきっかけで別れたことも。
付き合ったのは社長である父への見栄だったことも。
全部、知っています。
「伊月先輩の手って小さいけど、ゴツくて好きっすよ」
作業を再開してすぐ、俺は伊月先輩を見ないで言い出す。
1時間で半分くらい終えたから、ひとまずの休憩……基、もぐもぐタイムをさっきまでしていたんだ。
伊月先輩は赤いパッケージが特徴の一口チョコ、俺は色とりどりの粒チョコを持ち寄った。
伊月先輩が一口サイズのチョコを俺にアーンした後、指に付いたチョコをチュッチュッと音を立てて舐めていた。
その親指と人差し指が小さいのに、小石のように硬く膨らんだ関節のコブと甲に浮き出た血管が印象に残ったんだ。
「舌は熟れた苺みたいな赤さが色っぽいし、俺がチョコだったらイチコロっすね」
俺のおやつを大きく口を開けて待っている伊月先輩に1粒ずつを3回放り込んだ時の舌。
そして、上目遣いに自然となった大きな瞳の輝きに俺はドキッとしちゃったんだ。
「なに急に……オレを落とそうとしてんの?」
嘲笑うように言う伊月先輩に、いえと軽く返す俺。
「いつものことっすけど、エロい目線で見たらすごいことしてるなって」
「エロい目で見んなや」
突っ込まれた俺が豪快に笑うと、突っ込んだ伊月先輩もつられて大笑いをしたんだ。
「そういやぁ、待たせてる恋人は大丈夫なの?」
「あっ、忘れてたっす」
「ダメでしょ……今確認していいから、連絡したげて?」
伊月先輩の厚意を受けて、俺は黒いカバンからスマホを取り出す。
『7704』とタップしてロックを解除し、トークアプリを開くと、ナオちゃんから2件来ていた。
‘‘カレーとチーズケーキ、同時にせいさくちゅー’’
‘‘21時までには唐揚げも作って待ってるね、ダーリン♪’’
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