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 素肌を滑る銀色のチェーンは、まるで俺をこの世界に縛るための鎖のようだ。冷たくて無機質で素っ気ない、いつもの感触。これに慣れてからもう何年経つだろう。 「出番だ亜蓮(あれん)、準備しろ。――亜蓮!」 「うるせえな、聞こえてる」  ブーツのファスナーを上げた俺は、今日も薄汚れている狭いステージを見てうんざりしながら溜息をついた。昨日と同じ今日の始まり。そんな言葉が頭に浮かんで、つい舌打ちが出る。  客席にいるのはソファで酒を飲んでいる二人組。酔っ払って寝ている太った中年。馬鹿笑いしているスーツの集団。ここにいる全員、誰もステージなんて見ていない。 「もう少し笑ったらどうだ。それだけ美人なんだからよ」 「……どうせ誰も見てねえなら、笑い損だろ」  口の中で呟くと、禿頭(とくとう)の支配人が俺の首輪から伸びた鎖を握って強引に上を向かせた。 「お前が脱げば酔っ払いも目を覚ますさ。せいぜいエロい体を見せて、今日も適当な男から飯代をせびるんだな」  ……どんなに薄汚れていても目を閉じれば、目蓋越しに感じる光はいつでも美しい。それなのにどうして目を開けて見る現実はいつも、悲しいほど暗く落ち込んでいるんだろう。 「ストリップは数をこなして稼ぐしかねえからな。……まあ、お前の場合はセックスでそれ以上に稼いでるか」 「………」  俺の価値も同じだ。薄闇の中で見れば輝いていても、明るい陽の下では悲しいほどに暗く落ち込んで見える。  周りにあるのは、この体と引き換えに手に入れた「金」と「男」。若さという武器を失くせば一瞬で消える、不確かなものだけだ。  こんな人生を送るはずじゃなかった。自ら飛び込んだくせに、思わずにいられない。 「ほら、行け亜蓮。適当でいいから脱いで踊って来い」  抜け出したい。本当は。  こんな世界、抜け出したい――!  * 「………」  目を覚ました俺の視界に広がったのは、全く見覚えのない部屋だった。知らない映画のポスター。壁にはめ込まれた大型モニター。天井でゆったりと回るファン。  八畳ほどの広さがある部屋は何だかコーディネートがごちゃごちゃしていた。壁紙は黒地にグレーのストライプ。薄紫色のラグ。カラフルなクマやウサギのぬいぐるみに、どこから盗んできたのか道路標識らしきガラクタまで……。 「……どこだ、ここ……」  俺はそんな部屋の隅にあったベッドで寝ていた。黒いシーツは柔らかく、体にはお揃いの黒い布団がかけられている。

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