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「お前の制服はこれ」 「あ、ありがとう……」  渡されたのはただの黒いシャツだった。だけど普通のシャツにしては少し丈が長く、ボタンが一つもついていない。素肌の上にただ羽織っているだけという状態になるが、歩く度に空気抵抗を受けて翻る裾は見た目には美しそうでもある。 「シャツの中は裸。下はこのショートパンツ。ノーパンで穿けよ、新品だから安心しろ」  続いて渡された、レザーっぽい黒のパンツ。ファスナーはないがストレッチが効いていて、穿けばぴったりと体にフィットした。……少しローライズ過ぎるし、尻が半分出ている気もするが。 「このシャツとパンツは今日からお前の物だ、自分で洗濯して管理しろ。靴は……そのブーツのままでいいな。黒だから統一感もあって似合ってる」  ちなみに、と皇牙が俺の首に触れた。 「この首輪は外せねえのか? 鎖、歩くのに邪魔だろ」  チャラ、と小さな音を立てて、皇牙の指先で細い鎖が揺れ動く。首輪から俺の膝元まで伸びているこの鎖は、皇牙の部屋で目が覚めた時に唯一俺が身につけていたものだ。 「……出来ればこのままがいい。多分、俺にとって大事な物なんだ」 「分かった。大丈夫だ、好きにしろ」  そうして次はスタッフルームを出て、隣のキッチンへと連れて行かれた。フロアからは重厚なカーテンで仕切られているキッチンでは、何人かの黒服従業員が酒を作ったりグラスを洗ったりと忙しなく動き回っていた。そして――ここにも子供がいた。酒の残りをチェックしたり、自分の手よりも大きなグラス拭いたりと、黒服の仕事を手伝っている。 「………」 「外から見てキッチンゲートの上に付いてるピンクの電飾が点滅していたら、それは『注文の入った酒を作ったから持って行ってくれ』の合図だ。スタッフからどの席へ持って行けばいいか聞いて、持ってくだけ。簡単だろ」 「客から注文が入るのか」 「たまにな。基本はグラスの乗ったトレイを持ってウロウロしていればいい。勝手に客が酒を取って行く。グラスが無くなったらキッチンへ。その時、出来るだけ空のグラスを回収するのも忘れずにな」  見渡せば、俺と同じシャツとパンツ姿の青年があちこちを歩き回ってグラスを客に渡したり回収したりしていた。そうしながらも皆、時折キッチンの電飾に視線を向けている。 「歩き方……早足、がに股、内股は禁止だ。特に走るのは絶対禁止。真っ直ぐ背筋を伸ばして、顔を上げて、優雅に歩け。お前もこのクラブを飾る華の内の一人だということを忘れるな。雰囲気を演出するんだ」

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