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「もらうよ」 「どうぞ」 「一つくれ」 「どうぞ」  あっという間にトレイからシャンパンが無くなった。たった六つのグラスでは効率が悪い。もっと一度に沢山運べるようになれば、ゆっくり歩いて見学できるのに―― 「仔犬ちゃん、見つけた」 「わっ!」  考えていたら突然背後から抱きしめられた。皇牙じゃない、全く知らない男だ。 「な、何するんだっ」 「ずっと目を付けてたんだ。手が空いただろ? こっち来てサービスしてくれよ」 「はっ、サービス……?」 「こういうやつ」  背後からシャツを割られ、いきなり両の乳首を摘ままれた。 「んっ――」 「感度いいね。鎖付きの仔犬ちゃん、どこから脱走して来たんだ?」 「や、めろ……!」  指先で捏ねられ、嫌でも反応してしまう。肘鉄を喰らわせようと思ったその瞬間、俺はその現実に気付いてしまった。 「………!」  周りでは他にも俺と同じシャツを着たウェイターが、男とキスをしたり膝に乗ったりしている。トレイの上のグラスがなくなったウェイターに客らしき男が声をかけ、肩を組んで奥の仕切りの向こうへと入って行く。  ――ウェイターは無料の娼婦ってことか。 「仔犬ちゃん、俺が可愛がってやるよ」 「取り敢えず放して、……顔をよく見せてくれ」  ん、と男が俺から腕を離した。その隙に男から離れ、ダッシュでスタッフルームへと戻る。 「ちょっ、逃げんなよっ。仔犬ちゃーん!」 「はぁっ、は、……はぁ……!」  ドアを開け、中へ入って閉めたドアに背中をつける。そのまま深呼吸してほっと胸を撫で下ろすと、中にいた派手なボンテージ衣装を着た小柄な少年が、ビスケットを頬張りながらきょとんとした顔で俺を見て言った。 「何してるんだよ? あんた、ウェイターは走ったらいけないって皇牙に言われなかった?」 「……逃げてきただけだ」 「どんな理由があったって、あんた達ウェイターは――」 「黙ってそれ食ってろ」 「な、生意気な奴……!」  背中でドアが叩かれ、俺はその場から体をどけた。 「何やってんだ、亜蓮。俺が教えたこと二十分で忘れたのか」  現れたのは皇牙だった。ボンテージ姿の少年は「知~らない」とそっぽを向いている。

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