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「一つだけ聞きたいんだけど」 「何だ?」 「あのクラブで……ダチュラで、子供が働いてるだろ。この街の店では、どこでもああいう子供がいるのか? あの子達は誰かの子供なのか、それとも全く関係のない子達なのか?」  大人に混ざってナイトクラブで働く子供なんて、外国でだって聞いたことがない。あんな時間に起きていて学校に行けるのか、成長期の体や心に支障をきたさないのか。  ……どうしてこんなに子供のことが気になってしまうんだろう。子供なんか嫌いだったはずなのに。俺にとっては子供なんて、意地悪で乱暴で、自慢したがりで、陰湿な奴らという印象しかなかったはずなのに。 「チビ達は確かに俺が雇った。他の店では雇ってねえと思うよ、多分」  皇牙がフォークでタマゴをつつきながら言った。その顔はどこか曇っている。 「働きたいと言うから、働かせているだけだ。遅くても日付が変わる前には寝かせてるし、飯も三食食わしてる。従業員の部屋を借りて、今はそこで五人くらいが寝泊まりしている」 「その子達の親は? 何も言ってこないのか」 「さあな。親らしいのとは会ったことねえから、何とも言えねえ」  家出少年ということなんだろうか。  そうだとしたら、過去の俺と丸っきり同じだ――。 「………」  俺自身、物心ついた時からずっと夜の世界で暮らしてきた。  ソープ嬢の母親と、名前も顔も知らない父親。寝るのは朝から昼間にかけてで、起きるのは夕方から夜。たまに食べられるコンビニ弁当が何よりのご馳走だった。いつも同じ服。からかわれるのが嫌で学校に行かなくなっても、母親は何も言わなかった。  そんな環境から抜け出したかったはずなのに、俺が飛び込んだのも結局は夜の世界だった。恋をする前に男を知り、夢を描くよりも目先の快楽に溺れた。それが俺の人生……そして恐らくは、母親もこんな道を歩んできたのだ。 「で、どうする亜蓮。ウチで働いてくれるか」 「………」  ダチュラの子供達が気になってしまうのは、俺自身の幼少時代を彼らに重ねてしまうからだろうか。 「亜蓮っ?」 「え? あ、……ごめん。ありがたいけど俺は、本格的にポールダンスをやってた訳じゃないんだ。俺がやってたのはポールよりも、その……裸を見せる方で」 「堪らねえな。プライベートダンスは幾らでやってくれるんだ?」 「茶化すなよ。……そういう訳だから昨日はたまたま上手く行っただけで、専属なんて大層なことは……」 「いや、お前ならできる」  テーブルの上で伸ばされた手が、俺の甲に重なった。 「し、信用し過ぎだ。たった一度踊っただけなのに」 「客よりもニコラのために踊ったお前なら、無条件で信用できる」 「………」  俺は皇牙の青い眼を見つめながら、唇の端に付いたシロップを舐め取った。

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