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「……ん」  目が覚めた時、そこは皇牙の部屋のベッドの中だった。ここに初めて来た時に寝かされていたのと同じベッドだ。俺はまた気を失ったのか? 「亜蓮、起きたら顔洗って歯を磨け」  ドアから顔を覗かせた皇牙の口には歯ブラシが突っ込まれていた。外は薄暗いが、時計を見る限りどうやら朝になったらしい。  昨日はステージに上がって、皇牙の手で発散させてもらって、それから…… 「あれからぶっ倒れて泥のように眠ってたんだ。疲れたんだろ、無理させたしな」 「……それで、また運んでくれたのか」 「放置しとく訳にも行かねえだろ」  ベッドを降りて洗面所へ行き、言われた通りに顔を洗った。用意されていた俺の歯ブラシを使って歯を磨き、ぼんやりと目の前の鏡に顔を写す。  ここへ来てまだ二日目なのに、何だか物凄く疲れているみたいだ。 「終わったら台所へ来い。朝飯の準備ができてる」 「あ……」  言われて気付いた。昨日は殆ど何も食べていなかったんだ。食べずにあんなに体力を使って、疲れるのも無理はない。  皇牙と向かい合ってダイニングテーブルに着き、ベーコンエッグとパンケーキ、ミルクにサラダといういかにも朝食らしい朝食をとる。  寝室の他にリビングがあって、キッチンがあって……1DKといったところか。悪くない間取りなのに、キッチンのコーディネートもカラフルでごちゃごちゃだ。冷蔵庫もテーブルもステッカーまみれ。使っている皿にも統一感がなく、俺のパンケーキが乗ったプレートはニコニコ顔のクマの形をしていた。明らかに幼児が使うものだ。 「子供がいるのか……?」 「だいぶ昔結婚した男との間に、養子縁組した子供が一人な。今は離婚して向こうは実家で暮らしてるよ」 「ここは、男同士でも結婚できるんだ……」 「当然だ。お前がいた新宿ではできねえのか?」 「出来る国もあるけど、俺が住んでた日本ではそういう法律はなかった」 「面倒臭せえな、個人の結婚の権利なんて法で縛るモンじゃねえだろ」  俺は苦笑してパンケーキにナイフを入れた。例え今までいた日本で同性婚が許されていても、俺は誰ともできなかっただろうな、と思う。 「……ライはどうしたんだ?」 「さあ、自分の家で寝てるんだろ」 「一緒に住んでるのかと思った。あんたの新しい旦那なのかと」 「よせよ、あいつとは何もねえ。ただの仕事仲間だ。……それより、亜蓮」 「なに?」  皇牙が笑って、テーブルに頬杖をつく。 「正式に俺の店で働かねえか。ダチュラの専属ストリッパーになって欲しい」 「………」  いやに甘いパンケーキだった。シロップをかけない方が、逆に美味い。 「昨日の盛り上がりを覚えてるだろ。お前は突如ステージに現れた『チェーン・ストリッパー』だってよ。鎖を引きちぎって脱走してきた仔犬ちゃんだって、ナイトニュース専門の新聞にも載ってる」 「あんたに扱かれたのはしっかり覚えてる」 「ああ、あれも盛り上がった……じゃなくて、仕事の話だっ」  小さく笑って、俺はミルクを口に含んだ。

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