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「………」  立ち上がり、二人の元へと近付いて行く。 「やらせてくれ」  ポールから降りたステラが、俺のために場所を開けた。  ポールを握って少しよじ登り、適当な高さで右膝を絡ませる。膝から下――脛とつま先でしっかりポールをホールドし太股の裏に力を込め、もう片方の脚も膝を折る。 「……股が痛てぇ……」  ポールを握った腕を伸ばして上半身をゆっくりと横に倒し、……後はこの手を離して体を水平に保つだけ。頭では分かっているのに、手が放せない。 「だ、大丈夫か、亜蓮……体がプルプルしてるぞ?」  不安げに俺を見つめるニコラの横で、ステラが抑揚のない声で言った。 「君は腕の力には自信があるみたいだけど、太股の筋肉をもっと鍛えた方がいいよ。……多分、その手を離した瞬間に落下する」 「……くっ、……」 「昨日のブラスモンキーの時も、手を離せなかったもんね」 「……クソッ!」  自棄になってポールから手を離し、太股に思い切り力を込める。 「お、おお……凄い、亜蓮! 出来てるよ!」 「う、……う、く――駄目だっ!」  慌てて絡めていた脚を戻し、両手を床のマットについてポールから飛び降りた。ステラの言う通り、俺は昨日のブラスモンキーも腕の力に頼っていただけだ。見様見真似でやったものだし、ちゃんと練習して身に着けた技じゃない。  本当は新聞に取り上げられるような、大層な仕事をした訳じゃないんだ。 「後で太股の鍛え方、教えてあげる。初めてであれだけ出来れば大したものだよ」  ステラが背伸びをして俺の頭を撫でた。よしよし、と少し嬉しそうに笑いながら。 「へへ。ステラは俺の自慢の兄貴なんだ。兄貴に出来ない技はないんだよ。また俺に教えてよ」 「うん、いいよ。ニコラにならいつでも教える」  本当に誇らしげに、ニコラがステラの肩を抱いてニッと笑う。二人は基本的な性格は似ていないがやはり双子というのは本当で、同時に互いの頭を撫でて「大好き」と笑った。息ぴったりだ。 「ステラ、俺にもトリック技教えてくれ。あんまり凄いのは無理だけど、ダンスの繋ぎになるようなものなら何でも覚えたい」 「いいよ。亜蓮は飲み込み早そうだし」 「それって、俺は飲み込みが遅いってこと?」 「ふふ。……それじゃあ僕は、ちょっとだけキッチンで飲んで来ようかな」  ニコラの頬にキスをして、ステラがスタッフルームを出て行った。

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