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6-3
次にその男と出会ったのは、二階のソファで休憩していた時だ。アルコールよりも子供っぽい味が欲しくてサイダーを飲んでいたら、いつの間にか隣に座っていた男が今度は水槽越しではなく、直に声をかけてきた。
「……さっきの」
「ああ、先ほど振り。フラれはしたが、会話だけなら良いだろう。――闇示 だ、よろしく」
「亜蓮」
闇示と名乗った男と握手を交わす。その手は冷たく、整い過ぎた顔立ちや声の低さもあり、全体的に血が通っていない印象を受けた。
肩までの黒髪に赤い瞳。青白い肌。まるで吸血鬼みたいだ。
「亜蓮は、この街出身ではないそうだが」
「説明するとややこしいから、その辺は触れないでくれると有難いな」
「いいさ。どこから来たのか、隠したいのは皆同じだ。言いたくないことは言わなくて良い。重要なのは今ここに存在している君自身だからな」
闇示の長い腕が俺の肩に回される。肩に触れた指先が冷たくて、思わず体がビクついてしまった。
「……ただ、この健康的な美しい体には興味があるな」
「褒められてるのは分かるけど、ここでは誰とも寝るつもりはない」
素っ気なく言ってサイダーの瓶を呷ると、闇示がくすくすと笑って首を振った。
「違うさ。勿論セックスも試してみたいが、俺が求めているのはもっと、人間の根本的な部分だ」
「意味がよく、……」
何も着ていない俺の上半身――左胸の鼓動している部分に、闇示が人差し指を押し付けながら囁いた。
「生きている。今も、脈々と君の体内に流れている、……熱い血潮」
「はぁ……」
予想通りの吸血鬼なんだろうか。俺の血を吸いたいということなんだろうか。
「亜蓮くん」
心臓を指していた闇示の指が俺の頬にふれて、視線を合わせるよう促される。薄暗いフロアで間近に見る赤い目は、それこそ血の色をしていた。
「心地好くて、甘い夢を見てみたいと思わないかい?」
「え……」
「恐怖も痛みも、不安も、怒り悲しみ、……あらゆる負の感情を排除した状態で、深く温かな快楽の海へ沈んで行きたいと思わないかい」
「……ここでの薬は禁止されてるぞ」
「薬じゃないさ、そんな偽物の快楽とは比べ物にならない、圧倒的な快楽だよ」
付き合いきれず、俺はソファから腰を上げようとした。が――
「少しだけ与えてあげよう」
逃げるより、闇示の唇が俺の口を塞ぐ方が早かった。冷たい唇の感触。それなのに、入ってくる舌だけは信じられないほどに熱い。
「んんっ、んぅ……!」
俺の舌を絡め取り喰らい付こうとしているような、深く激しいキス。噛まれた唇に一瞬激痛が走ったが、何故かすぐに――痛みが心地好さに変わる。
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