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「ん、う……」
男と寝ることに慣れた体、何人もの男を知った心。キスだって数え切れないほどしてきた。キスなんてただ性欲を高める手段でしかないはずなのに、こんなに体が震えるほど心地好いキスがあるなんて。
「ふ、……あ、あ……」
闇示の甘い匂い。これはただの香水だ、嗅いでも体に変化はない。それなら、この感覚は一体どこから……
「素直な良い子は好きだよ」
俺の口から舌を抜いた闇示が、そのまま俺の顎を、喉を、舌でなぞりながら徐々に体をずらして行く。音もなくソファの上に押し倒された体。汗ばむ背中を片手で支えながら、闇示の唇が……ゆっくりと俺の乳首に被せられた。
「ああっ……」
中でねっとりと蠢く舌。突起に絡みつく唾液。甘くて心地好くて、腰が揺れてしまう。
「愛らしい乳首だ。尖り具合も、薄い色も、感度も。君と同じくらいに素直で、愛で甲斐がある」
「は、あぁ……あ、あんたの舌、……」
濡れた舌が乳首を転がす度、たっぷりと唾液を含んだ唇で啄まれる度、俺の体から頭の中を痺れるような快楽が突き抜けて行く。ただの刺激じゃない。何もかもがどうでも良くて、泣いてしまいそうなほど気持ち良くて甘くて、思考が深く沈んで行く……
これは水槽のステージだ。本物の水の中で浮かびながら好きな振り付けで踊っている。誰にも卑猥な目で見られることなく、自分の魂のためのストリップに陶酔している俺。宝石のような水泡に包まれ、その完璧なブルーの中で俺は……
「勘の良い子だな。……その通りだ。俺の舌と唾液にとろけない男はいねえのさ。安物の薬よりもよっぽど効果の高い『遊び』だ。亜蓮、お前の体にとって俺の舌は……」
闇示の声が鼓膜の奥に注ぎ込まれる。
「ふ、うぅ……あぁっ、あ……!」
お前にとって俺の舌は、上質で、最高で極上の、ハイグレードな、……
「――毒薬になる」
「っ……!」
体が震え、足のつま先からゾクゾクとした快感が這いずり上がってくるのを感じた。
体内の血液が一点に集中し、頭の中から網膜に白いフラッシュが光り、全身からどっと汗が噴き出てきて……
――やばい。射精する!
「亜蓮っ!」
はっとして目を開けると、そこには皇牙がいた。ソファに倒れた俺の体を支え、手のひらで頬を叩いている。
「こう、が……?」
「亜蓮、しっかりしろ。……おい、聞こえるか!」
ばしばしと頬を叩かれ、その痛みによって徐々に意識が覚醒して行くのを感じた。……というか、皇牙のデカい手でそんなに叩かれると……。
「亜蓮、目を覚ませ! 亜蓮! しっかりしろ!」
「――しっかりしてるっつうの!」
「ぐふっ……!」
左フックで皇牙の頬をぶっ飛ばすと、皇牙が頬を押さえてソファの下へと倒れ込んだ。その顔は笑っている。俺が目を覚まして安堵した表情だ。
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