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「いってぇ……。それだけ元気なら心配ねえな」
闇示はそんな俺達を冷めた目で見つめながら煙草をふかしていた。こちらは明かに不機嫌そうな顔だ。
「……闇示。てめぇ、ウチの従業員に二度と手を出すなって言ったはずだろうが」
皇牙が闇示の隣に腰を下ろし、スーツの胸倉を掴む。眉間に皺を寄せたその横顔は恐ろしく真剣で、声はいつもよりずっと低くなっていた。
「これ以上くだらねえこと続けるなら、お前の店も潰しにかかるぞ」
「落ち着けよ皇牙、俺は別にダチュラを潰そうと思ってやってるんじゃねえんだ。単純に、そこの亜蓮くんに惚れちまっただけさ」
「黙れ」
「美しい物に惚れちまうのは皇牙も同じだろ。たまたま俺よりも早く彼と出会ったからって、独り占めは良くねえなぁ」
二人の言い合いを遠くに聞きながら、俺は再びソファに倒れ込んだ。喧嘩なんてどうでも良いくらい、まだ心地好い余韻が残っている。頭の中がふわふわして、天井の照明がいやに綺麗なダイヤモンドダストに見える。
「亜蓮には手を出すんじゃねえ、他の従業員にもだ! 次やったらぶっ殺すぞ!」
「分かった分かった、もう帰るからそう怒るなって。ちょっとした遊びだろ、二度としねえ。許せよ」
「失せろ、今すぐ」
吐き捨てるように言って、皇牙が闇示の胸倉から手を離した。
「行くぞ、亜蓮」
「……ふ、あ」
腕を掴まれて起こされ、そのまま皇牙に横抱きにされる。体が軽くなるのを感じ、俺は頬を赤くさせながら皇牙の真剣な顔を見上げた。
「はは、お姫様抱っこだ……」
「黙ってろ。トんでるのが周りにバレる」
俺は皇牙の首に両腕を絡めて抱き付き、何度も何度もその肩に頬擦りした。
スタッフルームには俺達以外、誰もいない。
「亜蓮。俺の顔が分かるか。名前を言ってみろ」
「ええと……皇牙」
「その通りだ。いいか。お前は今、あのイカレサイコ野郎が手を付けてる、『レッド・タランチュラ』に頭がやられちまってる。そんな状態でステージに立たせる訳に行かねえ、治まるまでここで休んでろ」
「タランチュラ……? 麻薬か何か……?」
皇牙が不機嫌そうに腕組みをし、「クソが」と吐き捨てる。
「あれは薬なんてモンじゃねえ、完全な『毒』だ。キスする時に奥歯で錠剤を嚙み潰したんだろうよ。『タランチュラ』は体内に含んでも、液状化したものを体に塗っても催淫の効果が出る。レイプの時に使われるクソみてぇな毒だ」
「そうか、だから乳首……舐められた時も……」
「そん、……なとこまで舐めやがったのか。あの野郎っ……!」
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