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 まだ頭の中がおかしくなったままなのだろうか。自分から皇牙にキスをするなんて、信じられない。  唇を割り、すぐに皇牙の舌が入ってきた。闇示の時のような痺れる心地好さはないけれど……こっちの方が本当のキスだという感じがして、何だか凄く安心する。 「ん、……」  胸がドキドキしているのに気付き、俺はそれを隠すために皇牙の体を強く抱きしめた。闇示の唾液のせいじゃない。多分今の俺は、自分から皇牙を欲している。 「お前、孤児院を建てるって言ってたな」  唇を離した皇牙が、俺の耳元で囁いた。一瞬何のことかと思ったが、俺が答えたインタビューのアレだ。俺の、ストリッパーとしての目標。 「だ、駄目かよ……いいじゃんか、別に」 「勿論構わねえさ。ただ、お前がそんな風に思ってたなんて意外だったからよ」 「………」  記憶の蓋が、ほんの少しだけ口を開く――見えるのは子供の頃の俺だ。ぶたれることもあれば食事も毎日三食与えられず、いつもぼんやりと腹を空かせていた俺。  ろくでもない母親だったけどそれでも愛されたくて、怖くて近付けないのに心ではいつも叫んでいた。大好き。こっち向いて。俺を抱きしめて。  無言の訴えが届くことはなく、全てを諦めた俺は家を飛び出した。中学生になったばかりの、春の夜だった。  クローゼットの中で耐えていた時も、家から飛び出した時も、初めて体を売った時も。金をくれる男と寝るために過激なストリップをしていた時も。この世界へ来る直前、男に首を絞められた瞬間も。……俺は不幸なのは自分だけだと思っていた。 「……ニコラの昔の話を聞いて。皇牙があの双子を救ったって聞いて……。俺も、自分で誰かを救えたらって、思って」 「そうか」 「前にいた世界では、金と男のためにしか踊ってなかった……」  皇牙の唇が俺の頬に触れる。 「俺をここに連れてきてくれて、感謝してる……」  そして、震える唇が優しく塞がれた。 「………」 「はああぁ、お疲れ様です――って、えぇっ?」 「っ……!」  突然スタッフルームに入ってきたニコラが、俺と皇牙のキス現場に飛び上がった。咄嗟に皇牙から体を離したものの、俺の顔は耳まで真っ赤だ。 「ち、違う……違うぞ、ニコラ。これには訳があって……」  あたふたと言い訳をする俺を見て苦笑する皇牙。ニコラは口元に両手をあて、忍び笑いをしている。 「いいって、そんな慌てなくても。皇牙と亜蓮なら大人っぽくてお似合いだよ」 「そ、そりゃお前に比べたら俺は大人っぽいかもしれないけど……って、違う。言いたいのはそこじゃなくて……」 「キスしてきたのはお前からだもんなぁ」 「こ、皇牙っ!」  真っ赤になった俺を二人が笑う。恥ずかしくて堪らないが、二人のそれは冷笑や俺を囃し立てるものではなく、温かい笑い声だった。  誰かが俺の周りでこんな風に笑っていたことなんて、これまであっただろうか。 「………」  そう考えると、俺の心も少しだけ温かくなった気がした。

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