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明るいけれど、相変わらずごちゃごちゃしたコーディネートの部屋。壁紙は黒地にグレーのストライプ。薄紫色のラグ。カラフルなクマやウサギのぬいぐるみに、道路標識のようなオブジェ。
モニタの中で歌っているのはフランチェスカ・モリガ。俺のステージの時にかかる、あの甘ったるい声の歌姫だ。
「………」
皇牙から全てを聞かされた俺は、コーヒーが注がれたオレンジのマグカップに唇を寄せて少しだけ熱さに目を閉じた。
「お前を怖がらせたくなくて、嫌われたくなくて――嘘をついて済まなかった。……今回のことも俺の責任だ」
「皇牙は悪くない。……今回のも、俺が軽率だっただけだ」
ベッド脇の椅子に座った皇牙が、額に片手をあてて首を振る。
「馴染みの従業員に聞いた。お前、飛弦のために走り回ってたんだろ」
「……自分でも、無意識で」
「俺はあいつの言う通り、父親失格だ。感情に任せて人を殺した。さっきも闇示を殺してやりたいと思った。あいつがこのまま死ねばいいと……一瞬だけ、確かに殺意が沸いたんだ」
「でも殺さなかった。ちゃんと自分を止めることができた」
俺はマグカップを傍らのテーブルに置いて、皇牙の肩を抱き寄せた。微かに震えた男の体は熱い。それは、いつからか俺がずっと欲していた熱だった。
「自分でどう思っていようと、飛弦にとって皇牙は最愛の父親だ。ライも、皆も皇牙のことを慕ってる。前の事件だって、どう考えても悪いのは相手の方だろ。これ以上自分を責める必要なんかない」
俺の腕に抱かれたまま、皇牙が小さく頭を振った。
「それでも俺が、……人殺しが子供の面倒を見るなんて」
「関係ない」
ほんの数時間前、皇牙が俺に言ってくれたあの台詞。
今度は俺が言う番だ。一言一句同じ台詞を。最愛の男の魂を救うために。
「自分を認めるのがお前自身なら、これからどう生きていくかもお前次第なんだ」
顔を上げた皇牙の青い眼が微かに濡れている。
「人生はお前だけの物。『こうありたい』と願うなら、素直にそう生きればいい」
幾ら周りから称賛されようと愛されようと、自分で自分を認める難しさは俺が一番よく知っている。諦めや無価値感から生まれるのは後悔と苦しみだけなのだ。自分を認めない限り、信じない限り、とても素直に生きて行くことなんてできない。
だけど。
「自分次第でどうにでもなると教えてくれたのは皇牙だろ。だから俺は……」
頬を伝う熱いものを乱暴に拭い、俺はしっかりと皇牙の目を見て言った。
「だから俺は、この世界で皇牙と生きて行くことを決めた」
「亜蓮、……」
「連れて来てくれて、ありがとう……」
お互いの頬に触れ、俺達は静かに唇を重ねた。
「……それでも俺から離れるか、今すぐ俺を抱くか、皇牙が決めてくれ」
「っ……」
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