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Last Dance

 浴びるのが太陽でも、スポットでも、俺にとって心地好さは変わらない。  この光が与えてくれる幸福も喝采も、全ては未来へ繋がっているのだと確信しているから。 「亜蓮!」 「いいぞ、亜蓮! 最高っ!」  握ったポールの感触、熱い声援と鳴り響く指笛。大好きな歌姫のブルースに、最高の空間と浮遊感。ステージを蹴って天井近くまでポールをよじ登り、片脚を引っかけた宙吊りのレッグハングスタイルで回転しながら下りて行く。  逆さまになって回るフロアに、光るライト。俺を包み込む拍手と歓声。両手を大きく広げてそれら全てを浴びながら、しっかりと目を見開けば、……逆さまに落ちて行く汗の一粒一粒が、まるでダイヤモンドのように輝いた。 「亜蓮──!」  俺の名前は亜蓮。奇抜な衣装に身を包み、夜毎ナイトクラブで踊り続けるストリッパー。  俺の名前は亜蓮。もう、チェーン・ストリッパーじゃない。 「よくやった、亜蓮」  ポールからステージに降りた俺を迎えてくれたのは皇牙だった。──ステージの最後で出迎えて。俺のリクエストを叶えてくれた皇牙が腕を広げ、飛び込んできた俺を抱きとめる。  客席にライの顔が見えた。ニコラが笑い、ステラも手を叩いている。  俺を片腕で抱き上げた皇牙が、客席に向かってもう片方の腕を広げ叫んだ。 「ダチュラの星、我らが亜蓮・ザ・ストリッパーに盛大な拍手を──!」  今日一番のスタンディングオベーションと喝采を受け、俺は心からの笑顔と共に客席へ手を振った。 「終わったら俺だけにプライベート・ストリップを頼むぜ」  俺の耳元に唇を寄せた皇牙が悪戯っぽく囁き、俺も負けじと言い返す。 「報酬は弾んでくれるんだろうな?」 「……飛弦が寝た後で、な」  光るスポット、レーザーライト。鳴り止まない拍手と歓声。  俺は照れ隠しの笑みを浮かべる皇牙のその唇に、思い切り、だけど世界一の愛が籠ったキスをした。  俺達は走り続ける。手探りで進む道に不安を抱き、時に過去を悔やみながらも。  俺達は踊り続ける。その先に見える光が遠くても、ただひたすらに自分を信じて手を伸ばし続ける。  この世界へ俺を解き放ってくれた「彼」は今、フロア奥のガラスケースの中で静かな眠りについている。  俺がこれから歩む道、愛する者との誓い、そして子供達の明日を――優しく、夢に描きながら。

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