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笑顔の空間 1 | 至北巧の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
笑顔の空間
1
作者:
至北巧
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1
西依
(
にしより
)
先生は本業のデザイナーのかたわら、俺の通う専門学校で講師のバイトをしていた。 グラフィックデザイン科の、デザインの授業。 授業内容は個人の自由。 先生は人それぞれの進捗を見て回り、新たな課題を与えたりアドバイスをくれたりする。 「千坂くんがどういうモノが好きなのか、絵を見ただけでわかるなぁ。こだわりあるところ、表現するのがすごい上手」 小柄な先生に柔らかい声と笑顔で褒められると、自信がついて納得のいく作品が作れる。 これは好きじゃないだろうと指摘するときは、感覚ではなく技術や知識での改善方法を教えてくれる。 先生の授業が好きだった。 俺に『創作する気持ちよさ』を、一番経験させてくれる。 就職活動の時期だった。 俺は先生にどんな会社で働いているのか聞いた。 そこで先生は組織に属しておらず、自宅でフリーのデザイナーをしているのだと初めて知った。 そして、先生の仕事場を見学させてもらうことになった。 仲間は誘わなかった。 誘いたくなかった。 夕日に橙に染まる、綺麗な白いマンションだった。 エレベーターで八階まで上がり、先生の後をついてゆく。 一番奥の扉を開錠し灯りを点け、 「どうぞ」 と俺を中へ招き入れてくれた。 傘立てに何本か傘の立つ、生活感のある玄関。 入って左手のドアを開け、くぐる。 真っ白な壁紙、十畳ほどの広々とした洋間。 奥の窓際には、パソコンの備えられた白い作業デスクがひとつ。 入り口横に、小さなテーブルとソファ。 壁際の白く大きな棚には資料やプリンタ、スキャナが並んでいる。 「きれいにしてるほうでしょ」 先生が笑顔で言う。 俺は、空洞だ、と思った。 こんな小さな人に、この空間は広すぎる。 この笑顔が、大きな空間に押し潰されるか掻き消されるかしそうだ。 支えたい。 「先生、俺をここで雇ってもらえませんか?」 俺のデカいだけのこの体でも、彼を支えることができるのではないかと思った。
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至北巧
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