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 先生は、なんとなく悲しそうに微笑む。 「一つ、理解してもらえたら、いいかな」  のむべき条件は、うっすらとわかっていた。 「僕はここに、息子と二人で住んでいるんだ。息子を優先して仕事をするけど、それでもよければ」  玄関の傘立てに、小さな傘が立っていた。  この部屋にも、子どもが過ごした形跡がある。  朝は保育施設に子どもを送ってから仕事を始める。  夕方六時には彼を迎えに行く。  体調を崩せば日中も面倒をみるし、家事もするから自分に勤務時間というものはない。  それでもよいかと、たずねられた。 「全然、構いません」  雇うという選択肢があるなら、どんな条件でものめる。  そんな話を聞いたらなおさら、先生の力になりたい。  空間に作業デスクが一つ増えた。  勤務時間は午前九時から、午後六時。 「千坂くんのデザイン僕好きだから、一緒に仕事できると思うとワクワクするな」  先生は新しいデスクに座る俺を見て、そう笑った。  日中の数時間、先生は専門学校でバイト。  先生と共にいられる時間は、そう長いものではない。  先生はのんびりしているように見えて、なんでもこなす人だった。  事務もクライアントとの交渉も、仕事の段取りから実際の作業まで、すべてやってのける。  俺はまだ新人のせいもあるが、作業をするだけで良かった。  俺が支える必要はない気もする。  それでも、俺は先生のそばにいたかった。  一人この仕事場で作業していると、思う。  この場所は、やはり広すぎる。  空虚な砂漠の真ん中で仕事をしているような、外界から取り残されたような気分になる。  砂漠に彼を一人放り出すことはできなかった。

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