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第4話

「皇帝陛下、葉妃様の御到着―ッ」  宦官が大声で告げるのに、皆が一斉に跪拝した。大勢の宮女や宦官を引き連れて玉座に龍郭が座り、本来皇后が座るべき椅子に葉妃が座った。皆がそれに目を見開き、声には出さないものの動揺を隠せないでいる。  葉妃はどれほど寵愛されていようと立場は側室だ。そもそも皇后以外の女性は誰人たりとも政治には介入できないどころか、会議の場に顔を出すことさえも許されない。これは亮の揺るぎない決まりである。だというのになぜこの場に葉妃を連れてきたのか、誰もが龍郭の言動に注目した。  いつもであるならば尚書令である柳珠が進行を進めるのだが、今回は柳珠にも緊急会議の内容を知らされていないために進めようがない。仕方なく龍郭の前に進み出て膝を付いた。 「陛下、此度の招集はいかなご要件でございましょう」  まるで柳珠がそう問いかけるのを待っていたかのように、龍郭は酒と怠惰で濁った瞳で柳珠を見ながら笑んだ。もったいぶるように顎髭を撫でながら、すぐそばに座る葉妃の腰に腕を回して撫でる。 「うむ。今回招集したのは他でもない。儂は隣国である潤に戦を仕掛け、彼の国をこの手に掴もうと思う」 …………え?  龍郭の言葉に誰もが一瞬思考を停止させた。それ程までに龍郭の発言はあり得ないものだった。  潤の国は東の大国と呼ばれるほどだ。亮の国とは豊かさも兵力も比べることさえおこがましいほどに差がある。代々の皇帝は潤の国の皇帝と友好関係にあったために、亮の国は今もって攻め滅ぼされずに平穏を保つことができているのだ。亮の国は決して国土が豊かなわけではなく、不作の折には潤の国が援助してくれることも多々あった。いわば大恩ある国なのである。その国を攻め滅ぼそうと言うのか。 「陛下ッ! 今ご自分が何を仰ったのか本当にお分かりでございますか!? 潤の庇護があるからこそ亮の民はなんとか飢えることもなく平穏に暮らせるのですよ!? まして今の国力で潤に攻め入れば、国を奪うどころか我が国が完膚なきまでに滅ぼされてしまいます。お考え直しくださいッ!!」  柳珠が叫べば、流石に事態を重く見た高官達が一斉に跪いて「お考え直し下さい!」と言う。その中には勿論燕薫の姿もあった。だが、高官達が反対するとは頭の片隅にも思っていなかったのか、龍郭の顔はみるみるうちに真っ赤になり、荒々しく立ち上がった。

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